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認知症の兆候が血液中に示されることが判明

認知症に関連する33種類の血液代謝化合物は、新たな診断法や治療法の鍵となる可能性があります。

Peer-Reviewed Publication

Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University

image: A heat-map, where red shows high levels of a compound, and blue shows low levels of a compounds, reveals the link between certain metabolites and dementia. Compounds in sub-group A were typically higher in dementia patients and lower in healthy elderly people. Compounds in sub-group B-E showed the opposite effect. view more 

Credit: OIST

本研究のポイント

  • 認知症に関連する33種類の代謝化合物を研究チームが発見した。
  • 認知症患者では、7種類の代謝物が健康な高齢者よりも高い値で検出された。
  • これらの代謝物は、神経細胞に対して毒性を持つと考えられており、認知症の原因となっている可能性が示された。
  • 一方、認知症患者では、26種類の代謝物が健康な高齢者よりも低い値で検出された。
  • これらの代謝物は、神経細胞がフリーラジカル(遊離基)より受ける損傷を防ぎ、エネルギー貯蔵量を維持して栄養を供給すると考えられている。
  • サプリメントによってこれらの代謝物の値を上昇させることが、認知症の新たな治療法になる可能性がある。

概要

沖縄科学技術大学院大学(OIST)、国立病院機構琉球病院および京都大学から成る研究チームは、認知症に関連する血液中の代謝化合物を特定しました。

本研究では、認知症患者と健康な高齢者とでは、33種類の代謝物の濃度に違いがあることが明らかになりました。米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された本研究成果は、今後認知症の診断と治療に寄与する可能性があります。

研究の背景

本論文の筆頭著者で、OISTのG0 細胞ユニットに所属する照屋貴之博士は、次のように説明しています。「代謝物とは、細胞内や組織内で起こる重要な化学反応によって生成される化学物質です。人間の体は通常、これらの代謝物の濃度を適切なバランスで保っていますが、年齢を重ねたり、認知症などの疾患を発症したりすると、濃度は増減し変化します。」

認知症とは、単一の疾患ではなく、記憶力、思考力、判断力、日常生活の遂行能力などがゆっくりと、しかし通常は不可逆的に低下していく一連の症状に対する総称で、加齢関連疾患の中でも最も深刻な疾患の一つです。世界の認知症患者数は5,500万人と推定され、患者や家族だけでなく、社会全体にとっても深刻な問題となっています。

認知症が神経の障害によって起こることは明らかになっていますが、そのような障害が起こる正確な原因や、障害を検出し治療する方法には課題が残されています。

本研究について

本研究では、認知症患者と健康な高齢者各8人から血液検体を採取し、解析を行いました。また、参照として健康な若者8人からも検体を採取しました。血中の代謝物を解析する一般的な研究とは異なり、本研究では赤血球中に含まれる代謝物も解析対象としました。

「血球は、放っておくと短時間でも代謝変動を起こすため、扱いが困難です」と照屋博士は説明しています。

そこで、研究チームは、赤血球内の代謝物を安定化させる方法を開発し、これによって赤血球の活動と認知症の関係を調査することが初めて可能となりました。

研究チームは、全血中に含まれる124種類の代謝物の濃度を測定し、その中で5つのサブグループに分類される33種類の代謝化合物の値が認知症に関連していることを発見しました。このうちの7種類は認知症患者において高い値を示し、26種類は低い値を示していました。さらに、これらの代謝物うちの20種類は、これまでに認知症との関連性が指摘されておらず、その20種類うちの9種類は赤血球中に多く含まれるものでした。

本研究の責任著者で、OISTのG0細胞ユニットを率いる柳田充弘教授は、「これらの代謝物を特定したことで、認知症の分子診断に向けて一歩前進したと言えます」と研究の意義を述べています。

毒性を持つ代謝物

認知症患者において高値を示した7種類の代謝物は、血漿内に存在し、サブグループAに属するものでした。重要な点は、これらの代謝物の中には、中枢神経系に対して毒性を持つと考えられるものが含まれているということです。

「まだ結論は出ていませんが、これらの代謝物は脳の障害を引き起こす可能性があるため、認知症の原因となるメカニズムを示唆している可能性があります」と柳田教授は説明しています。

チームは将来的に、マウスなどの動物モデルにおいてこれらの代謝物が増加すると認知症が誘発されるかどうかを調査して、本概念を検証する予定です。

細胞や組織を保護する代謝物

また、健康な高齢者よりも認知症患者において低値を示したその他26種類の代謝物は、別の4種類のサブグループであるB-Eに属していました。

認知症患者において低値を示した代謝物のうち、構造が類似している6種類はサブグループBに分類されました。 これらの代謝物は抗酸化物質であり、フリーラジカル(細胞内の化学反応によって生じる不安定な分子)による損傷を軽減させることで細胞や組織を保護する役割を果たします。 研究チームは、健康な高齢者の赤血球中には、食品由来のこれらの抗酸化物質が多く含まれていることを発見しました。

「赤血球は、酸素だけでなく、神経系を損傷から守る重要な代謝物も運んでいるのかもしれません」と照屋博士は述べています。

その他のサブグループに含まれる代謝物は、栄養素の供給やエネルギー貯蔵量の維持、さらに神経細胞を損傷から保護する役割を果たしていると考えられています。

「将来的には、認知症患者にサブグループB~Eの代謝物を補給したり、サブグループAの神経毒を阻害したりすることで、認知症の進行を遅らせたり、症状を予防したり回復させたりすることができるかどうかを調査する介入研究を始めたいと考えています」と柳田教授は語っています。

本研究は、沖縄科学技術大学院大学 G0細胞ユニットが国立病院機構琉球病院 福治康秀院長ならびに京都大学 近藤祥司准教授と行った共同研究です。


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