- クルマエビの「設計図」であるゲノム情報の概要を明らかにしました。
- クルマエビゲノムの大きさ(約19億塩基対)はヒトゲノムの約6割で、約2万6000個の遺伝子が見つかりました。
- このゲノム情報はクルマエビの感染症防除法の開発、品種改良や資源評価の情報基盤として役立つと期待されます。
【共同プレスリリース】沖縄科学技術大学院大学 (以下、OIST) のマリンゲノミックスユニットと国立大学法人東京海洋大学 (以下、海洋大) のゲノム科学研究室などは共同で、我が国における水産上の重要種なクルマエビのゲノム解読に成功しました。本研究で得られたゲノム情報は、クルマエビの養殖現場で頻発する感染症の防除に向けた研究を加速し、また品種改良や天然資源管理の効率化にも役立つと期待されます。本研究の成果は、アメリカ遺伝学会が発行する学術誌G3オンライン版で発表されました。
背景
クルマエビ (学名: Marsupenaeus japonicus) は、我が国において古くから珍重されてきた重要な水産動物です。「くるまゑび」の名は、江戸時代の本草書『本朝食鑑』に現れ、歌川広重の浮世絵にも描かれています。明治時代には天然クルマエビの畜養が試みられ、我が国におけるクルマエビの養殖の端緒を開きました。1930年代には藤永元作らがクルマエビの人工孵化に世界で初めて成功し、1960年代には大規模養殖技術が確立されました。日本で築かれたクルマエビの養殖技術は、今日世界中で営まれるエビ養殖の基盤となっています。
日本近海の天然クルマエビは北海道南部から九州にかけて分布していますが、クルマエビ養殖生産量の全国トップは沖縄県です。1970年代に本土から種苗が導入されたのを皮切りに、クルマエビ養殖は県内各地に広まり、飛躍的な発展を遂げました。クルマエビは沖縄県の海面養殖業生産額の28%を占め、一位のモズク(41%)に次ぐ重要な水産物のひとつとなっています。
一方で、クルマエビ養殖はウイルスや細菌など病原微生物による感染症の被害に悩まされてきました。感染症を防止するには、クルマエビが病原体と戦う仕組み(生体防御機構)を理解することが重要です。
生体防御機構を初めとして、生体内のさまざまな働きは、細胞の中で作られる各種のタンパク質やRNAという分子によって担われています。ひとつひとつのタンパク質やRNAの構造や、それらがいつどの細胞で生産されるべきかを指定した情報が、遺伝子としてDNAに書き込まれています。このような理由から、ある生き物がもつDNAの全配列、すなわちゲノムは、その生き物の「設計図」に例えられます。
私たちは、クルマエビのゲノムを解読することで、クルマエビの生体防御機構を理解するためのデータ基盤を構築することを目指しました。
研究内容・成果
私たちは、次世代シーケンサーと呼ばれるDNA解析機器を駆使して、沖縄県産クルマエビのゲノム概要配列を得ることに成功しました。
クルマエビのゲノムの大きさは約19億塩基対(ヒトゲノムの約6割)と推定され、その88%にあたる約17億塩基対の概要配列が得られました。解析の結果、ゲノムの3割弱が単純反復配列と呼ばれる繰り返し配列で占められていることがわかりました。これはクルマエビ類以外の他の動物ゲノムにはほとんど見られない特徴です。
クルマエビのゲノムには、約26,000個の遺伝子が存在すると推定されました。このうち7割弱の遺伝子について機能を予測できました。
今後の展開
クルマエビのゲノム情報が整備されたことで、クルマエビがどのような遺伝子を持っているのかが明らかとなりました。これらの遺伝子のはたらきや、個体間の遺伝子配列の違いを詳細に解析することで、クルマエビの生体防御機構に対する理解が深まり、病気に強いエビをつくるための研究が加速すると期待されます。
また、本研究の成果は、ゲノム情報を活用して効率的に新品種を作り出すゲノム育種や、天然資源管理の高度化を進めるためのDNAマーカー開発に役立つと期待されます。
Journal
G3 Genes Genomes Genetics
Method of Research
Experimental study
Subject of Research
Animals
Article Title
Genome and transcriptome assemblies of the kuruma shrimp, Marsupenaeus japonicus
Article Publication Date
13-Sep-2021