News Release

HIF-2αを抑制し軟骨恒常性を制御するマイクロRNA-455を発見

Peer-Reviewed Publication

Tokyo Medical and Dental University

image: Treatment of osteoarthritis by miRNA introduction view more 

Credit: Department of Systems BioMedicine , TMDU

 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科システム発生・再生医学分野の淺原弘嗣教授ら、リサーチコアセンター伊藤義晃助教の研究グループは、米国スクリプス研究所Martin Lotz教授らとの共同研究で、マイクロRNA-455 (miR-455) の-5pと-3pの両鎖が軟骨基質の破壊を促すhypoxia-inducible factor-2α(HIF-2α)を抑制することで、軟骨の恒常性維持に重要な役割を担っていることをつきとめました。この研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST、文部科学省科学研究費補助金並びに米国国立衛生研究所の支援のもとおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Nature Communications(ネイチャー コミュニケーションズ)に、2021年7月6日にオンライン版で発表されました。

【研究の背景】
 変形性関節症(Osteoarthritis; OA)は、軟骨細胞外マトリックスの合成と分解のバランスが崩れ、軟骨の恒常性が保てなくなることで引き起こされます。軟骨組織の破壊により、患者は激痛を被り、日常生活における運動機能を著しく低下させます。現在の治療法としては、痛みをとる対処療法が主体で、人工関節置換術などの比較的侵襲の大きい手術に至る例も多くあり、直接、関節軟骨細胞を保護し、機能を高める侵襲性の低い新しい治療法の開発が期待されています。
 本研究グループは、OAや軟骨恒常性維持にも重要な役割を持つことが明らかになりつつあるマイクロRNAに着目し、軟骨特異的なマイクロRNAの探索とその機能について解析し、OAの病態解明並びに新たな治療法開発の足がかりとなる軟骨恒常性維持の分子メカニズムの解明を目指しました。

【研究成果の概要】
 軟骨の形成や恒常性維持に重要な役割を持つ転写因子であるSox9により発現が誘導されるマイクロRNAについて、Sox9を過剰発現した軟骨細胞を用いて探索を行った結果、軟骨で特異性の高い発現を示すマイクロRNAとしてmiR-455を同定しました。miR-455は-5pと-3pの両鎖が同程度発現する珍しいマイクロRNAで、OA軟骨においてmiR-455-5pおよび-3pの発現が減少していることがわかりました。
 次にmiR-455ノックアウトマウス※2を作製・解析したところ、6ヶ月齢のノックアウトマウスは野生型と比べて軟骨の変性が進行し、OA様の表現型を示すことがわかり、miR-455は軟骨の恒常性維持に重要なマイクロRNAであることが明らかになりました。
 miR-455の軟骨恒常性維持における分子メカニズムを明らかにするために、miR-455の標的遺伝子のスクリーニングを行ったところ、軟骨基質を分解する酵素などの遺伝子の発現を促進し、OAにおいては悪玉として働くと考えられているHIF-2α※3の発現をmiR-455-5pと-3pの両者が直接抑制していることがわかりました。
 さらにmiR-455の関節炎治療効果を調べるために、マウスOAモデルの膝関節腔内にmiR-455を投与する実験を行ったところ、miR-455-5pと-3p両方を投与した群で軟骨の変性が抑えられていることがわかりました。本研究成果から、miR-455-5pと-3pは協調的にHIF-2α を抑制し、軟骨恒常性維持に重要な役割を担っていることが明らかになりました。

【研究成果の意義】
 研究グループは、miR-455-5pおよび-3pの両鎖が軟骨恒常性維持に重要であることを明らかにし、この両者を用いることでOAにおいて悪玉遺伝子とされるHIF-2αを効率よく抑制し、関節炎治療効果が見られることを突き止めました。マイクロRNAは一般的に5p、3pどちらかの鎖が機能しますが、本研究成果は、両鎖が同じ遺伝子を標的にして組織ホメオスタシスを制御する新たなモデルを提唱するものであり、またOAの病態解明やマイクロRNAを用いた核酸治療など新たな治療法の開発に寄与する可能性が期待されます。


【用語解説】
※1マイクロRNA 
マイクロRNA (microRNA; miRNA) は、標的遺伝子の転写産物 (mRNA)に直接結合することで、遺伝子発現を抑制する約 22 塩基からなるノンコーディングRNA です。生合成過程で約22塩基のマイクロRNA二本鎖が形成され、その二本鎖のうちどちらか片方 (5’側の鎖: 5p, 3’側の鎖: 3p)が選択的にRISC (RNA-induced silencing complex)と呼ばれるタンパク質複合体に取り込まれ、もう片方は分解されます。ほとんどのマイクロRNAは、大部分がどちらか片方の鎖のみがRISCに取り込まれ機能しています。

※2ノックアウトマウス
 遺伝子組換えにより標的遺伝子の一部を欠損させる等により機能させなくしたマウス。

※3 HIF-2α
 HIF-2α (hypoxia-inducible factor-2α; 別名EPAS1 (Endothelial PAS domain-containing protein 1))は、低酸素誘導型の転写因子で、OA軟骨において発現が高く、軟骨基質を分解する酵素や炎症性サイトカインなど、関節炎の要因となる遺伝子の発現を誘導し、軟骨破壊を促進すると考えられている遺伝子。
 


Disclaimer: AAAS and EurekAlert! are not responsible for the accuracy of news releases posted to EurekAlert! by contributing institutions or for the use of any information through the EurekAlert system.