熊本大学の研究グループは、大腸腺腫症の発症を抑えるタンパク質MUTYHの立体構造を原子レベルで解析し、MUTYHがDNA中に生じたミスマッチを修復する仕組みを明らかにしました。MUTYH遺伝子の変異は大腸がんに繋がる家族性大腸腺腫症の原因となるため、本研究の成果は今後の家族性大腸腺腫症の研究に役立つことが期待されます。
細胞内で生じる活性酸素種は、遺伝情報物質であるDNAを酸化します。DNAに含まれる塩基の一つであるグアニンが酸化損傷を受けると、酸化塩基8-オキソグアニンが生成されます。通常、グアニンはシトシンと対合しますが、8-オキソグアニンはアデニンとも対合するようになるため、突然変異を引き起こすことでがんや老化の原因となります。
MUTYHは、8-オキソグアニンに誤対合 (ミスマッチ) したアデニンを見つけ出して除去修復するタンパク質であるため、その遺伝子の変異は大腸がんに繋がる家族性大腸腺腫症の原因となることが知られています。またMUTYHは、タンパク質PCNAによってDNA複製の現場に呼び込まれることでDNA中のミスマッチを効率的に修復することがわかっていますが、原子レベルでの仕組みは明らかにされていませんでした。
タンパク質の機能を正確に理解するためには、原子レベルでその構造を知ることが重要です。X線結晶構造解析は、生体内の分子を1 x 10-10 mのスケールで観察することができる方法です。
熊本大学を中心とした研究グループは、MUTYHがDNA中のミスマッチに結合した状態のX線結晶構造と、MUTYHがPCNAに結合した状態のX線結晶構造を解析しました。その結果、MUTYHがDNA二重らせん構造の外側を取り囲み、二重らせんの中に入り込むことでDNA中のアデニンとミスマッチしている8-オキソグアニンを探す様子を明らかにしました。また、PCNAとMUTYHの立体構造から、PCNAがDNA二重らせん上の足場となって、MUTYHをミスマッチ部位に呼び込んでいる様子を提案することで、MUTYHとPCNAが協力してDNAを修復する仕組みを明らかにしました。さらに、MUTYHとDNAの立体構造の解析により、MUTYH遺伝子の変異が、MUTYHとDNAの結合を減弱させることや、MUTYHの立体構造を不安定化することで、MUTYHのDNA修復活性を低下させていることを示しました。
本研究を主導した中村照也准教授は次のようにコメントしています。
「MUTYHとPCNAは、DNA修復に関わる様々なタンパク質と働くことが知られているため、本研究で明らかにした立体構造は、MUTYHとPCNAを中心としたDNA修復機構をさらに理解する上での基盤となることが期待されます。また、MUTYHとDNAの原子レベルの立体構造については、今後の家族性大腸腺腫症の研究に役立つことが期待されます。」
本研究成果は、科学誌「Nucleic Acids Research」に令和3年6月18日に掲載されました。
[Source]
Nakamura, T., Okabe, K., Hirayama, S., Chirifu, M., Ikemizu, S., Morioka, H., ... Yamagata, Y. (2021). Structure of the mammalian adenine DNA glycosylase MUTYH: insights into the base excision repair pathway and cancer. Nucleic Acids Research. doi:10.1093/nar/gkab492
Journal
Nucleic Acids Research
Article Title
Structure of the mammalian adenine DNA glycosylase MUTYH: insights into the base excision repair pathway and cancer
Article Publication Date
17-Jun-2021