横浜国立大学の武田淳・片山郁文研究室および日本電信電話株式会社の共同研究チームは、これまで観測された中で世界最高速の電子振動現象を記録することに成功しました。またこの観測から、化合物内のホスト物質とドーパントとで、電子振動波形が生じる時間が異なることを発見し、位相緩和による振動現象の減衰が生じる可能性を示しました。
プロ野球投手の速球は肉眼では追いきれないほどの速さで進みますが、高速シャッターのカメラで撮影すれば動きの一瞬が切り取られ、ボールの軌跡・スピード変化・回転のかかり方などの細やかな情報を得ることができます。同様に、高速で運動する電子も、電子を「止めて見る」ようにすることでその様子を詳細に調べることができます。研究では一般に、「一瞬だけ輝く」レーザー光(光パルス)をカメラのストロボのように使って、物質中に存在する電子の高速な「動き」をコマ撮りします。この時、光パルスの時間幅(パルス幅)が短ければ短いほど、時間分解能(カメラのシャッター速度)があがり、より高速の現象を捉えることが可能となります。
これまで同研究チームのメンバー(NTT 物性科学基礎研究所)は、極短時間のパルス幅(660 as)を持つ単一化(孤立化)されたアト秒(10-18秒)パルス光源を開発し[H. Mashiko et al., Nature commun. 5, 5599 (2014)]、窒化ガリウム(GaN)半導体内部で振動する電子運動(周期:860 as)の観測に成功しました[H. Mashiko et al., Nature Phys. 5, 741 (2016)]。本研究では、より高速の電子振動の計測を目指すと共に、さらなる未知の電子物性を調査するため、異なる材料が混ざり合う化合物内部の電子挙動の観測に挑戦しました。
本研究では、単一アト秒パルスのさらなる短パルス化(パルス幅:192 as)を図り、さらに高安定化したポンプ・プローブ光学系(時間揺らぎ:23 as)を構築することで、クロム材料を添加したサファイア(Cr:Al2O3)物質内で振動する電子運動(周期:667-383 as)の観測に成功しました。これは、時間分解計測における世界最速の振動応答です。さらに、物質内で混在する二つの材料(クロムとサファイア)間で、電子振動が異なった減衰時間(振動の継続時間)を有していることを初めて解明しました。
本研究の発展により、光の反射・吸収・屈折・回折・光電流・光放射などの物理現象が起こるしくみを根源的なレベルで明らかにすることができます。また、物質の新たな光機能性を創出する期待に加え、発光素子(ディスプレイ・発光ダイオード)や光検出器(カメラ・受光センサー)等の効率改善に向けた研究に役立つ可能性が有ります
本成果は4月18日(水)(英国時間)に、Nature Communicationsに発表されました。
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Nature Communications