森林は、生物多様性の促進や炭素循環の調節、資源の供給など、地球にとって欠かせない役割を果たしている。しかし森林の健康は、自然と人間が引き起こした環境変化に直面して損なわれつつある。Scienceの特集では、こうした変化が、魅惑的で多様な熱帯林から素朴で回復力に富む北方の原生林まで、世界中の森林にどのような影響を与えているかを詳細に考察している。
Susan Trumboreらの指摘によると、人間が森林のバイオーム(生物群系)に大きく依存していることを特に考えれば、極端な環境変化や気候変化の代わりに、森林の健康状態をモニターすることがかつてないほど重要になっているという。しかし、森林の健康を構成する多くの要素が複雑にはたらいているので、要素の特定は必ずしも容易ではない。たとえば、大きな森林火災の発火原因が人的活動にあったとしても、激しく燃えたのは干ばつのせいだということもある。さまざまな森林健康の指標を分解して、モデルを用いてそれらを適切に説明することが何よりも重要だ、とTrumboreらは結論付けている。
2つ目のReviewでは、Sylvie Gauthierらが、本来は回復力に富んでいる北方林について論じている。北方林は現在、かつてないほどの急速な変化と新たな脅威に直面している――温暖化が進むと害虫の生息域が拡大し、乾燥が進むと森林被覆が広範囲にわたって減少または消失しかねない。著者らは、現在主要な炭素吸収源のはたらきをしている北方林の生物多様性を保つには、適切な木材供給計画を立てるなどして、持続可能な管理を実施する必要があると示唆している。
もうひとつのReviewでは、Constance MillarとNathan Stephensonが、ますます広範囲で見られるようになった、長引く干ばつと温暖化の同時発生について分析している。干ばつと温暖化のせいで、一部の温帯林は持続可能性の限界を越えてしまっている。木は何千年ものあいだ干ばつ期間に耐えてきたが、著者らによると、最近は「より高温の」干ばつが増えたことで、木の生存能力が新たな窮地に陥っているという。最大の問題は森林火災で、なかでも「メガファイア(大規模森林火災)」は、今日の温帯林に深刻な変貌をもたらしうると考えられる。著者らは、脆弱な森林を高度に識別したうえで効果的に管理介入することで、より適応した新たな森林状態への移行が容易になるのではないかと示唆している。
Simon Lewisらによる別の研究では、人間が熱帯林に及ぼしている影響について考察している。熱帯林は、水分の蒸散や雲の形成、大気の循環を通じて、地球規模の気候の調節に重要な役割を果たしている。広範囲にわたる伐採によって熱帯林は寸断され、個体群動態は混乱し、その結果、種の減少が進んでいる。著者らは、人間が熱帯林における絶滅のカスケード効果をどのように引き起こしてきたかに関して、特に種子をまき散らす種が影響を受けた場合について、数例を紹介している。もし「破壊なき開発」への道が確立されなければ、熱帯林の深刻な劣化が続くだろう、と著者らは述べている。
最後に、Michael Wingfieldらの研究では、人工林は均一な性質をもつものと仮定して、病原体や害虫に対する人工林特有の感受性について調べている。グローバル化のせいでこの問題は悪化しているが、人工林を守る解決法(特に遺伝子工学を使ったもの)はいくつかある。著者らは、地球レベルでの取り組みにおける投資・能力・協調の不足が障壁になっていると述べている。
一連のニュース記事では上記の諸問題を生き生きと伝えるべく、現在世界中の木々を蝕んでいる森林の健康問題を紹介している。Gabriel Popkinsによる記事は、北米のカナダツガのニュースを取り上げている。ほとんどのカナダツガはハリモミヒノカサアブラムシ(Adelges tsugae)によって、葉が落ちて灰色の幹と枝だけになっている。野放しになっているこの虫に侵されたツガの木は、ほぼすべて枯れてしまう――しかし、科学を取り入れた懸命の努力によって、この運命から逃れた木も多少はある。Tim Appenzellerによる別の記事では、昨年カナダのノースウェスト準州を襲ったようなメガファイアが、ますます広範囲で起こっているのを受けて、メガファイアの後に北方林がどのように生物多様性を回復しているか――いないか――を考察している。3つ目のニュース記事では、Elizabeth Pennisiが有名な森林生態学者Robin Chazdonを取り上げている。Chazdonは人工林と自然回復の違いを数十年にわたり研究している人物で、現在は政策レベルで森林再生への取り組みを試験し変革することに注目している。
Policy Forumでは、森林の健康を改善するための答えを探るべく、Steven Struassらが、遺伝子操作された木が有する害虫に対抗できる利点を、時間のかかる昔ながらの種子の掛け合わせと比較して論じている。著者らは、定められたシナリオで遺伝子を組み換えた植物について、各機関が迅速な実地調査や規制を免除された実地調査ができるように、規制方法の改善を要求している。Ariel Lugoによる論説では、最適な森林の健康を得るため、森林学者と生態学者は、その他の自然科学および社会科学の専門家と共に、森林の研究・保護の責任を分担しなければならないと主張している。
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Article #7: "Forest health and global change," by S. Trumbore; H. Hartmann at Max Planck Institute for Biogeochemistry in Jena, Germany; S. Trumbore at University of California, Irvine in Irvine, CA; P. Brando at Instituto de Pesquisa Ambiental da Amaz�nia in Bel�m, Brazil; P. Brando at Woods Hole Research Center in Falmouth, MA.
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