News Release

前例のない4成分の非対称ラジカル1,4-オキシトリフルオロメチル化反応の開発に成功

高精度量子力学的計算により選択性発現のメカニズムも解明

Peer-Reviewed Publication

Ibaraki University

Prof. Chen group at NTHU

image: from the left, Shiang-Fu Hung, Prof. Chien-Tien Chen, Chia-Hao Lu and Pin-Xuan Tseng view more 

Credit: NATIONAL TSING-HUA UNIVERSITY

 バナジウムと酸素が結合したバナジウムオキソ(VO)種は、過酸化物と組み合わせることにより、硫化物やアミン化合物を酸化するために用いられています。また、VO種を含む化合物は、糖尿病の予防にも用いられており、ハロペルオキシダーゼのような金属酵素の触媒を構成するひとつでもあります。  

台湾の国立清華大学(NTHU)の陳建添教授は、2-ナフトールとVO種の好気性非対称カップリングによって、光学活性ビナフトール類の合成する技術を2001年に切り拓きました(C&EN News, 79(20), 45–57(2001))。さらに、同教授のグループはVO種によって安定化されたアシルとトリフルオロメチルラジカルを同定し、オキシ/アシルラジカルとオキシ/CF3ユニットをオレフィン二重結合に転位することにも成功しています。

 その後、陳教授のチームは、キラルVO種を触媒とし、トリフルオロメチル基導入に使われるTogni試薬を用いて、常温の好気性という条件下でオレフィンのトリフルオロメチル化の反応を起こし、生物医学にとっても重要なγ-トリフルオロメチル化ケトンを得ることに成功しました。この反応に対し、日本の茨城大学院理工学研究科(理学野)の森聖治教授、同博士前期課程の藤井稜馬さん、同博士後期課程修了者の川島恭平博士は、高精度の量子力学計算を実行し、好気性条件下で初期の過酸化バナジウム中間体のケトン形成を伴った反応のメカニズムを解析しました。加えて、重水素標識実験を行い、VO過酸化物への潜在的な1,4-プロトン移動と、VO種への1,5-プロトン移動が、高いジアステレオ/エナンチオ制御で起きることを示しました。これらの水素移動はバナジウム種固有のものであり、他の金属オキソ錯体の触媒作用で観測されたことはありませんでした(ACS Catalysis、10、3676(2020))。

 前述の研究に続き、陳教授のチームでは、室温の条件下で、アルコール溶媒中のレドックス活性キラルVO触媒により、等価体であるトリフルオロメチル基とヒドロキシル/アミノヒドロキシル基の両方を、アルケンに直接かつエナンチオ選択性を高めて導入する新たな手法を開発しました。トリフルオロメチルを含む化合物は、炭素原子とフッ素原子の間の強力な共有結合によって医薬的な特性が高まり、代謝による分解/変異を促すため、医薬品の開発につながることが期待されます。

 この研究では、トリフルオロメチル基、2つのオレフィン、及びNOPI(N-オキシフタルイミド)という前例のない4成分のカップリングを初めて実現しました。この反応は、抗けいれん薬、抗腫瘍薬といった重要な医薬品や農薬の開発にもつながります。また、茨城大学のチームの高精度量子力学的計算の結果、VOや電子豊富なフッ素原子、フェニル基間のπ/π相互作用を含む非古典的な弱い相互作用と、水素結合が確認されました。また、サリチリデン配位子の置換基がエナンチオ選択性を制御することを発見しました。これらのVO種を介した触媒作用は、銅や鉄の触媒作用とは概念的に異なるものであり、オレフィンとオレフィンのクロス(非対称)カップリングに応用可能な新たな展望を拓くといえます。

【有機合成化学の権威である国立清華大学・林民生教授(京都大学名誉教授)から本研究に寄せられたコメント】

 この研究は、キラルバナジル錯体を使用したスチレン誘導体の分子間非対称オキシトリフルオロメチル化の最初の成功例を示しています。さらに、1,4-関係での2つの立体中心の確立をもたらす独自の4成分カップリングは、分子内での様態における同じような戦略の新たな入口を開くでしょう。

 触媒的不斉反応の分野におけるこの大きな成果は、キラルバナジウム触媒の設計と利用、ラジカルトリフルオロメチル化の反応機構の深い理解を含む著者の新たなアイデアによって実現されました。また、最も重要なこととして、本研究は完璧な実験家と理論家のコラボレーションに基づいており、DFT計算の結果は触媒サイクルの反応経路を明確に示しています。

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