光合成とは、光エネルギーを化学エネルギーへと変換する反応であり、地球上の全ての生命の生存を支える重要な反応です。シアノバクテリアは酸素発生型の光合成を行う原核生物であり、世界中のあらゆる環境に生息しています。シアノバクテリアは光を集めるためのアンテナタンパク質として、赤色光を吸収するフィコシアニン、緑色光を吸収するフィコエリスリン、黄緑色光を吸収するフィコエリスロシアニン、の3種類を持つことが知られています。これまで、フィコシアニンとフィコエリスリンの量が光スイッチによって調節されることは知られていましたが、フィコエリスロシアニンの調節は報告例がありませんでした。
豊橋技術科学大学応用化学・生命工学系の広瀬侑助教らは、東京大学、生理学研究所との共同研究で、フィコエリスロシアニンを調節するタイプの光スイッチを発見しました。研究チームは、データベースに登録されたシアノバクテリアのゲノム情報を探索し、フィコエリスロシアニンと光スイッチを併せ持つシアノバクテリアの一群を特定しました。さらに、そのうちの1株を培養し、フィコエリスロシアニンの量が光の色によって大きく調節されることを実験的に証明しました(図1)。さらに、約450株のシアノバクテリアのゲノム情報を詳細に解析したところ、このフィコエリスロシアニン調節型の光スイッチが約21億年以前にたった1度だけ誕生し(図2)、その後、シアノバクテリア同士の遺伝子の交換(水平伝播)によって進化してきたことを明らかにしました(図3)。また、光スイッチは、細胞同士が数珠のようにつながったシアノバクテリアに多く分布していました(図3)。この理由としては、黄緑色光を吸収する量を調節することで、光合成に用いる光の色を細胞間で変え、光の奪い合いの競争を避けている可能性が考えられました。光スイッチは、限りある光エネルギーをシアノバクテリアが分かち合うために進化してきたのかもしれません。
フィコシアニンやフィコエリスリンは天然由来の色素としてアイスクリーム等の食品着色料として使用されています。本研究の成果は、フィコエリスロシアニンの大量生産やそれを用いた新たな食品開発への応用が期待できます。また、光合成の改変による光エネルギー変化効率の向上や、光照射によって生物の遺伝子の働きを制御する研究への応用が期待できます。
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Reference:Diverse Chromatic Acclimation Processes Regulating Phycoerythrocyanin and Rod-Shaped Phycobilisome in Cyanobacteria.
Hirose Y., Chihong S., Watanabe M., Yonekawa C., Murata K., Ikeuchi M., Eki T.
Molecular Plant (2019) Feb 26. in press. doi: 10.1016/j.molp.2019.02.010.
Journal
Molecular Plant