ゴキブリは森林生態系において、腐敗植物を消費する重要な分解者として知られています。 しかし、今回研究者らは、ツツジ科に属する林床植物である「ギンリョウソウ」が、ゴキブリによって種子を散布されていることを思いがけず発見しました。これは新しく発見された植物−昆虫間の相互作用になります。 本研究は、2017年7月27日の「Botanical Journal of the Linnean Society」 最新号で報告されました。
ギンリョウソウは、栄養を吸収するためベニタケ科のキノコ類に依存する菌従属栄養植物です。果肉には数百個の種子が入っています。種子は非常に小さく(約0.3mm×0.2mm)、堅い殻に包まれています。果実は成熟すると地面に落ちるか、花茎そのものが倒れて果実が地面に接します。熟した果実は、香りもなく白っぽく薄い色をしていて、日陰の森の地面にあるとほとんど目立ちません。あまり水分を含まない果実は、人にとっても甘いものではありません。
鳥や哺乳類は近寄りませんでしたが、果実には様々な無脊椎動物が近寄ってきました。これらの無脊椎動物のうち、数多くの微細な種子が埋め込まれた熟果を夜間に一貫して訪れ、摂食したのは、モリチャバネゴキブリ(大半が成虫)のみでした。成虫のモリチャバネゴキブリは種を食べた後約3〜10時間後にフンを排泄し、フン(約1mm)にはそれぞれ平均して3.1個のギンリョウソウの種が含まれていました。
ゴキブリから輩出されたフンには種子がそのまま残っており、生存していることがわかりました。この種子を試薬検査してみると、排出された種子は約半数が生存しており(52.0%)、果実から直接採取した種子(49.3%)と同等の生存率を維持していたのです。これにより、モリチャバネがギンリョウソウの種子散布者として機能していることがわかりました。
ギンリョウソウの果実と種子にはモリチャバネによる種子散布に適した、次のような特徴がいくつも認められました。(1)果実の成熟期はモリチャバネの年1回の羽化期(5月〜6月)とほぼ一致する。(2)果実が提示される森林の地表面とゴキブリが生息する地表面がほぼ一致する。(3)種子は微細でありながら頑丈な種皮をもっているため、摂食されても生存が可能。また、モリチャバネゴキブリの方でも種子散布者として都合の良い特徴を備えています。(1)植物が生育しているところにたくさんいる。(2)モリチャバネゴキブリが生息する場所は主にベニタケ科のキノコ類が生息する森林で、その生息領域で排便することが期待されていると考えられる。(3)種子が排出されるまでの所要時間が長く(摂食してから3〜10時間後)、遠方への種子散布が可能。よって、果実を宿したギンリョウソウは、成虫のゴキブリに特化して種子散布を頼ることで、森林の地表に着実に種子を分散させることを可能にしていることが強く示唆されます。
研究を主導した熊本大学の杉浦直人准教授は次のようにコメントしています。「ゴキブリはこれまでに約4600種同定されており、ゴキブリを媒介した種子散布は特定の種のゴキブリによる特別なものではなく、もっと広く普及しているものの未だ明らかにされていないだけである可能性があると考えられます。今回の知見により、人々が植物とゴキブリの共生作用にもっと注目し、ゴキブリ媒介種子分散のさらなるケースが追究されることを期待します。」
本研究成果は、Botanical Journal of the Linnean Societyに2017年7月27日掲載されました。
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[Resource]
Yasuhiro Uehara, Naoto Sugiura; Cockroach-mediated seed dispersal in Monotropastrum humile (Ericaceae): a new mutualistic mechanism. Bot J Linn Soc 2017 box043. doi: 10.1093/botlinnean/box043
Journal
Botanical Journal of the Linnean Society