CRISPR-Casゲノム編集の根本的な限界に対処することで、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の必要性をほぼなくせる新しい改変Cas9バリアントが開発された。このモチーフは、通常ではDNA標的化CRISPR酵素に必須である。報告によれば、この新しいCas9酵素は、先例のない精度で、事実上ゲノム全体を標的化できる。著者らはこれがCRISPR-Casシステムの可能性を大きく拡張させると述べ、これまでゲノムの「編集不可能な」領域に位置すると言われていたヒトの疾患に関連する変異を、このアプローチを使って是正してみせた。DNA標的化CRISPRに関連する酵素は、PAM配列を認識することで自らの標的を発見する。PAM配列は、DNAの編集可能な部分に目印をつけ、特定のCRISPR-Casヌクレアーゼの結合シグナルとして働く短い遺伝コードである。隣接する認識可能なPAM配列がないと、Cas酵素は望ましいDNAの部分を認識できず、うまく結合して切断することもできない。標準的なStreptococcus pyogenes Cas9(SpCas9)のバリアントを含むさまざまなCas酵素はさまざまなPAM配列を認識するが、ゲノムの大部分は編集の標的とならず、オフターゲット変異が生じる可能性が高い。したがって、PAMの必要性は、分解能の高いゲノム標的化を必要とするアプリケーションを大きく制約する障壁となっている。Russell Waltonらはこの欠点に対処するため、さまざまなPAMを有する配列を標的として編集できるSpCas9酵素の新しいバリアントを作製した。今回、Waltonらは2つの重要なバリアントを報告した。拡張されたNGN PAMのセットを標的にできるSpGと、ほぼPAMが不要なバリアントであるSpRYである。これらを併せると、SpGとSpRYは、CRISPR-Cas9ヌクレアーゼを用いて、ほぼゲノム全体について、一塩基対の精度で制約のない標的化が可能である。WaltonらはSpRYを用いて、過去にゲノムの「編集不可能な」領域に位置しているとされていた変異を是正できた。
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