東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科腎臓内科学分野の内田信一教授、森崇寧助教と七松東大学院生らの研究グループは、多彩な病態に関わるウロモジュリン蛋白の新たな制御機構を明らかにしました。この研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構、文部科学省科学研究費補助金、公益財団法人ノバルティス科学振興財団公益法人、ソルトサイエンス研究財団の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌 Hypertension に、2021年4月26日にオンライン版で発表されました。
【研究の背景】
ウロモジュリンは腎臓にのみ発現し、尿中に最も多く分泌される蛋白です。尿中ウロモジュリンは生理的に尿路感染症や腎結石を予防する一方で、分泌不全により腎臓に蓄積すると高血圧症や慢性腎臓病といった病態の発症と関わることが分かっています。したがって、ウロモジュリン尿中分泌を上手に制御することができれば、これらの疾患に対する画期的な治療法として期待できます。しかしながら、ウロモジュリン尿中分泌の制御機構は未だ不明な点が多く残っています。
【研究成果の概要】
本研究では、抗利尿ホルモンであるバゾプレシンがウロモジュリン尿中分泌を促進することを明らかにしました。バゾプレシン2型受容体アゴニストであるデスモプレシンを野生型マウスに投与すると、ウロモジュリン尿中分泌が著明に増加しました。尿中への分泌増加に伴い、腎臓での発現量は減少しました。バゾプレシンは細胞内で環状アデノシン一リン酸(cAMP)※1を介して作用を発揮します。本現象の分子メカニズムを明らかにするために培養細胞を用いた実験を行いました。腎尿細管上皮細胞においても、バゾプレシン/cAMPシグナルはウロモジュリンの頂端膜側培地への分泌を促進しました。活性化薬及び阻害薬を用いた検討により、cAMPの下流シグナルとしてプロテインキナーゼA(PKA)※2の活性が重要であることを示しました。さらに、最終的な分泌機序としてプロテアーゼ※3活性上昇が関与していることを、阻害剤を用いた検討で明らかにしました。
【研究成果の意義】
本研究は、バゾプレシン/cAMP/PKAシグナルがウロモジュリン尿中分泌の生理的な刺激因子であることを示しました。バゾプレシンは脱水時に血中濃度が上昇し、尿量を減少させるように働きますが、脱水時は尿路感染症や腎結石のリスクが高い状況です。バゾプレシンにより、尿路結石症や腎結石を予防するウロモジュリンの尿中分泌が促されることは、理に叶った生体防御機構と言えます。 さらに本研究は、ウロモジュリンの腎臓における発現量を減少させるシグナルを発見した点でも意義深いと考えられます。ウロモジュリンの腎臓への蓄積は高血圧症や慢性腎臓病の発症に関わります。本研究成果は、尿路結石症、腎結石のみならず、高血圧症や慢性腎臓病に対する新たな治療戦略の基盤と期待されます。
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【用語解説】
※1 環状アデノシン一リン酸(cAMP) アデノシン三リン酸からアデニル酸シクラーゼという酵素により合成される分子。細胞表面で受け取った細胞外からの情報を細胞内の標的分子に伝達する。蛋白分泌を含め多様な生理的応答に関わる。
※2 プロテインキナーゼA(PKA) cAMP依存性のキナーゼ蛋白で、cAMP依存性プロテインキナーゼとも呼ばれる。標的タンパクをリン酸化するなどして、cAMPを介した細胞内情報伝達系で重要な役割を担う。
※3 プロテアーゼ タンパク質を分解する酵素の総称。ウロモジュリンは細胞膜に係留されており、プロテアーゼの作用により係留部位が切り離されることで尿中に分泌されることが知られている。
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HYPERTENSION