巨大ブラックホールの起源に迫る新たな説が、スーパーコンピュータを用いた研究から導かれました。重元素を含むガスから生まれた小さな星が衝突・合体して、巨大ブラックホールの種を作り出す様子が明らかになったのです。従来の理論では説明できなかった多数の巨大ブラックホールの起源に迫る結果です。
巨大ブラックホールはほとんどの銀河の中心に存在していますが、その起源は大きな謎のままです。従来は、水素とヘリウムのみを材料とするガス雲が一気に収縮して、ブラックホールを作るとされていました。しかし、この理論では、一部の宇宙初期に形成された巨大ブラックホールの起源しか説明できず、現在観測されているより多くの巨大ブラックホールの数を説明することが難しいのです。
宇宙の始まりからしばらくたつと、炭素や酸素といった星の中で作られた重元素が、超新星爆発などによって星間空間にまき散らされます。重元素を含むガス雲は、重元素によって冷却され分裂して小さな星になり、巨大ブラックホールの種となる巨大星にはならないと考えられてきました。この説を確かめるためには大規模なシミュレーションが必要ですが、これまでは計算機の性能が不足していて、明らかにできませんでした。
この困難な課題は、国立天文台のスーパーコンピュータ「アテルイⅡ」を用いることで克服されました。東北大学の鄭 昇明(チョン・スンミョン)研究員と大向一行(おおむかい かずゆき)教授は、アテルイⅡを用いて、重元素を含むガス雲の長時間にわたる進化について3次元の高解像度でのシミュレーションを行いました。従来の予想通り、中心付近には大きな星が作られ、その周囲ではガスが激しく分裂して小さな星が形成されます。しかしその後は、小さな星が中心に向かうガスの流れと共に移動し、中心にある大きな星と衝突・合体する様子が導き出されたのです。こうして、中心付近に作られた大きな星は効率的に成長し、太陽の1万倍ほどの質量を持つ巨大星になることが明らかになりました。この巨大星がさらに成長しやがて巨大ブラックホールになると、研究者らは考えます。
今回の計算で導き出された新しい巨大ブラックホールの種の形成理論は、従来の宇宙初期に限った理論よりもはるかに多数の巨大ブラックホールの起源を説明することができます。巨大ブラックホールの普遍的な起源を解明する可能性をひらく成果です。
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Journal
Monthly Notices of the Royal Astronomical Society