News Release

極低圧下でも火種は消えない?

地球外空間での防災戦略への提言

Peer-Reviewed Publication

Toyohashi University of Technology (TUT)

Smoldering limit observed in low pressure

image: Effects on smoldering speed (propagation velocity) and extinction condition against the pressure at various adopted O2 conditions view more 

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<概要>

豊橋技術科学大学機械工学系に所属する研究チームは、極端に減圧した環境下でも炎を出さない燃焼が持続することを実験的に示すとともに、その理由を解明するための詳細計測に世界で初めて成功しました。低圧環境は宇宙船内や月面基地など,地球外環境の閉鎖空間の標準設定条件として頻繁に用いられるため、本研究成果は近い将来の有人ミッションにおける防災戦略に不可欠となる基盤情報を提供するものです。

<詳細>

線香やたばこのように、空隙を多く持つ固体物質は炎を出さずに緩慢な燃焼を実現することができます。この現象を「くん焼(無炎燃焼.スモルダリング)」と呼びます。布団に火種が与えられると,暫く「くすぶり状態」が続き,その後,突然炎が立ち上がって火災が急速に拡がりますが,くん焼とはこの「くすぶり状態(の燃焼)」に相当します.通常,炎を出して燃える場合,ある程度の酸素を遮断すると炎が保てなくなって消えてしまいます.そのためせいぜい大気圧の1/3程度(〜30 kPa)まで減圧すれば炎は消失します.ところがくん焼の場合,遥かに低い圧力まで消えることはなく,純酸素(酸素100%)条件では,大気圧の1/100程度(〜1 kPa)でもくすぶりが続きます.くん焼は「しぶとい」ことは経験的に知られているものの,なぜそのような悪条件でも燃え続けられるのかは未解明のままでした.その主な理由は,消える直前での燃焼強度は著しく弱く,温度センサを挿入するとそれがきっかけで燃焼状態を変えてしまうからです.

本研究では,その未解明な問題に挑戦すべく,センサ挿入に伴う熱影響が無視できる条件を抽出し,消える直前の温度分布を高精度で計測することに世界で初めて成功しました.具体的には線香に直径0.2mmの穴をあけ,そこに極細の温度センサ(自作)を埋め込み,消炎限界付近でも定常燃焼させるような安定性の高い空間を設けることでそれを実現しています.

「脆い2mmの線香にドリルで0.2mmの穴を空けること自体,容易ではありませんが,さらにその中に極細の温度センサを埋め込み,試験チャンバ内部に正しく配置することは,表現し難い苦労を伴います.実際,1度の計測準備に相当時間がかかります.温度計測をしないと燃えた・燃えないという事実しかわかりませんが,限界近くの温度計測を成功させたことで,線香のような粒度の細かい材質で構成された多孔質材であっても,発熱部の数mmにある予熱部まで輻射による熱輸送がありそこから周囲空気に対して熱が逃げて消炎に至ること,減圧すると熱の逃げが少なくなり,予熱分はそのまま燃焼促進をもたらす可能性を指摘しました.たかが温度分布,されど温度分布です」と筆頭著者である博士後期課程の山崎拓也は説明します。

<開発秘話>

研究チームのリーダーである中村祐二教授はこう結びます.「世界に相当数の燃焼研究者がいても,わずか直径2mmの脆い燃焼試料に極細穴を開け,そこに極小センサを埋め込んで消炎状態を直接計測しようとする人はおらず,ましてや,それを実現した人はいない.他の人がやら(れ)ないことに挑戦しない限り,誰よりも先の結果を知ることができない。山崎くんの好奇心,職人ばりの技術,くじけない根性はそれを実現してくれました.宇宙空間での消火対策として,キャビン内のガスを機外に出し,内圧を低下させて消火させる防災対策が検討されていますが,減圧してもくん焼状態を持続していた場合,消えたと思って圧力回復したときに突然炎が立ち上がるという火災の二次被害がもたらされる可能性があります.そのため,くん焼が持続できない条件を明確にすることは,宇宙での防災戦略にとても重要な意味を持ちます.今後,民間主導で宇宙開発が進むと期待されていますが,低圧火災の研究を通じて想定外の事故を未然に防ぐことに貢献したいと考えています。」

<今後の展望>

くん焼は空隙の中で緩慢に化学反応が進行するとされていますが,実はそれがどのようになっているのか誰も見たことがありません。このように,現象は馴染みがあるものの,実は発熱機構すら十分にわかっていないのが実体です.最近,共同研究先の海外研究チームが「空隙内のごく弱い気相反応が空隙表面での酸化反応を強化する」可能性を数値解析にて予測しました.果たしてこれが正しいか否か,これから米国の共同研究チームと連携して空隙内での反応状況のセンシングを試みる予定です.もちろん,そのようなマイクロメータオーダの空隙の中での反応状況を検知しようとする発想は斬新であり,「誰もやら(れ)ない新たな課題への挑戦」は続きます.

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<論文情報>

Yamazaki, T., Matsuoka, T., and Nakamura, Y., "Near-extinction Behavior of Smoldering Combustion under Highly-vacuumed Environment", Proc. Combust. Inst., Vol.37, in print (DOI: 10.1016/j.proci.2018.06.200).


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