News Release

ラン科植物の減少に追い討ちか!?

ランの実を食べるハエによる食害の実態を解明

Peer-Reviewed Publication

Kobe University

What's Eating These Endangered Orchids?

image: This photo shows the Golden Orchid blooms (left) and J. tokunagai on the flower. view more 

Credit: Takuto Shitara

神戸大学大学院理学研究科の末次健司特命講師,千葉県農林総合研究センターの福島成樹森林研究所長と森林総合研究所九州支所の末吉昌宏主任研究員は,ランミモグリバエと呼ばれるハエ類の1種による種子食害により,キンランを初めとする調査した全てのラン科植において,少なくとも調査した地点では種子生産がほとんどできていないことを明らかにしました.乱獲や開発による自生地の消失などが原因で,日本に自生するラン科植物のうち,実に70%以上が環境省から絶滅危惧種の指定を受けています.よって,このような大きな被害が,全国的に,かつ,長期間続くならば,種子による更新ができなくなり,ただでさえ減少が続いているラン科植物に大きな打撃を与えてしまうことが危惧されます.

本研究成果は,9月21日に,国際誌「Ecology」にオンライン掲載されます.

【研究の背景】

現在,ラン科植物は,2万種以上が確認されており,キク科と共に被子植物の中で,最も種数の多いグループの1つです.またその独特な花形態は,古くから多くの人々を魅了し,世界中で愛されてきました.ラン科植物はその人気ゆえ,乱獲などの影響により,個体数が激変しているものも少なくありません.乱獲や土地開発による自生地の消失などが原因で,日本に自生するラン科植物のうち,実に70%以上が環境省から絶滅危惧種の指定を受けています.このような個体数が減少し,絶滅が危惧される植物種の保全を考える上では,遺伝的多様性の保全の観点から,クローンではなく種子による繁殖が望ましいといえます.そこで,危機的状況にある多くのラン科植物の保護を考える上で,花粉を運んでくれる昆虫(送粉者)や種子生産を妨げる寄生者の特定といった基礎的情報の価値はますます高まっています.このような背景のもと,私たちは,ラン科植物の繁殖に関係する生物の情報蓄積に努めてきました.

【研究の詳しい内容】

私たちは,ラン科植物の送粉者を特定するために行った調査の過程で,受粉がきちんと行われて本来であれば十分な種子が生産できるはずの果実でも,ランミモグリバエというハモグリバエ科の1種の食害により,キンランを初めとする多くのラン科植物の種子が全くといってよいほどできていないことを明らかにしました (図1).

このハモグリバエは,開花時期ごろに,若い果実に産卵し,ふ化した幼虫は,果実のなかの種子を食べて成長し,果実の中で蛹になり羽化の際,果実を食い破って出ていきます.しかし,ハモグリバエに寄生された果実は,大きさ的には,寄生されていない果実と同じくらいの大きさに成長するため,一見するときちんと種子の入った果実ができているように思えます.このためハモグリバエによる被害は過小評価されてきた恐れがあります.しかし実際には,ハモグリバエに寄生された果実では,種子が全くできていないことがよくあります (図2).このハモグリバエによる食害自体は,1980年代から知られてきましたが,具体的に,種子生産がどの程度妨げられているかは,明らかでありませんでした.

そこで今回,私たちは,関東地方に生育するマヤラン,サガミラン,キンラン,クマガイソウ,ハマカキランの5種のラン科植物について,人工授粉を行ったあとで,袋掛けをしてハモグリバエが訪れることができなくした状態ものと,人工授粉したあとはそのまま何もしないで放置した状態ものとで,できた種子の質や量を比較しました.この研究は,ランミモグリバエにより,どの程度の種子生産を妨げられているかを定量化した初めての研究です.その結果,私たちの調査地では,5種のランのいずれにおいても,ハモグリバエの被害により種子生産が95パーセント以上減少してしまうことが明らかになりました.現在のところは,まだ,このような大きな被害が,全国的に,かつ,長期間起こっているのかは明らかではありません.しかしこのような大きな被害が続くと,種子による更新ができなくなり,ただでさえ減少が続いているラン科植物に大きな打撃を与えてしまうことが危惧されます.

実は,ハモグリバエによる被害は,特に近年になって深刻化してきている可能性が指摘されています.この理由として (1) エビネブーム (※1) のときに広まった国内外来種 (※2) のため,寄生蜂などの天敵がいない可能性,あるいは,(2) ランの個体群が分断化されることで,天敵だけがいなくなった可能性などが指摘されていますが,証明された訳ではありません.今後, (1) 日本他地域での被害の定量化や (2) ハモグリバエの遺伝構造の解明による外来種説の検証などに取り組むことで,ハモグリバエによる食害の実態をより詳細に解明していきたいと考えています.

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【用語解説】

※1:エビネブーム
1970年代後半より起こったラン科エビネ属の流行.乱獲され数が激減,現在では国産エビネ属のほとんどが絶滅危惧種に指定されている.また,この際,本来の自生地から遠く離れた場所で,エビネが売買され,病害虫も一緒に拡散した可能性が指摘されている.

※2:国内外来種
日本国内の他地域から人為的な影響により持ち込まれた生物種のこと,外国に分布する生物の国内移入とともに、生態系や生物多様性に及ぼす影響が問題になっている.

DOI: https://doi.org/10.1002/ecy.2471


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