News Release

ひらめきを科学する

ひらめきに先立って生じる瞳孔散瞳

Peer-Reviewed Publication

Toyohashi University of Technology (TUT)

Fig.1

image: Example of inspiration video (top). Change in state of recognition of predicted video (bottom left). Change in pupil diameter at time of recognition (bottom right). view more 

Credit: COPYRIGHT (C) TOYOHASHI UNIVERSITY OF TECHNOLOGY. ALL RIGHTS RESERVED.

豊橋技術科学大学 情報・知能工学系の研究チームは、ヒトが物体に対するひらめきが生じたときの瞳孔(眼球にある、いわゆる黒目と呼ばれる部分)を計測しました。瞳孔は、目に入る光を調節するために、散瞳・縮瞳をする機能を持つ一方で、ヒトの精神状態を反映してその大きさが変化することが知られています。本研究では、ヒトがひらめきを生じさせるような動画(徐々にオブジェクトが現れる)を見ているときの瞳孔反応を計測し、物体に対してひらめきを得たときと、得ていないときの反応を比較しました。結果として、瞳孔は物体に対してひらめきを生じたかどうかでその散瞳量が変化するだけでなく、その前段階ですでに大きな散瞳を示すといった結果を見出しました。本研究成果はイギリスの科学誌 Scientific Reports に 5月 2日付けで掲載されました。

ヒトがひらめきを得る場合に主観的には一瞬の出来事のように知覚されます。これによって、ひらめきは例えば、「アハ!体験」や「Eureka moment」のように表現されます。しかしながら、過去の研究では、複数のワードからある共通のワードを想起するようなクイズにおいて、ひらめきまでの事前の脳活動の変化が報告されてきました。本研究では、これを深化させ、物体理解におけるひらめきを伴う記憶検索が瞳孔散瞳に付随して生じるのではないかといった仮説のもとで実験を行いました。結果として、瞳孔は実験参加者がひらめきを報告する前にすでに散瞳しており、その後のひらめきを予測しました。したがって、将来的にこの発見は、記憶検索のための新しい戦略を外部から観測・コントロールすることにつながるかもしれないと研究者らは考えています。

「我々の脳のほとんどは無意識に働いていて、私たちの意識に昇る知覚や認知は一部であるといわれています。このため、脳処理の大部分を占める無意識の世界には未だに多くの謎が残されているといえます。我々はその中でも、ヒトの物体認知に焦点を当て、生体計測によって意識に上る前の処理を観測することに成功しました。さらに驚くべきなのは、参加者が行ったひらめきタスクにおける自信度が関連しなかったことです。つまり、参加者は主観的には、もう少しでひらめきそうだ、のような感覚に瞳孔は関連せず、ひらめきを得たと応答したかどうかのみをトラッキングしていました。これは、無意識な処理における物体に対する記憶検索の成功が確かに瞳孔散瞳に反映されていることを示していると考えています。」と筆頭著者である博士後期課程の鈴木雄太は説明します。

研究チームのリーダーである南哲人准教授は「われわれは、これまで「ひらめき」について主に脳波計測を用いて研究してきましたが、今回、非接触計測技術の瞳孔計測で発見が得られたことから、複数の計測技術の組み合わせによる新たな展開などが期待できます」と説明します

続けて,南哲人准教授はこう主張します。「物体に対するひらめきは、記憶検索の成功と深い関連があり、例えば、瞳孔散瞳とひらめきに基づいた問題解決との間の関連が異なる脳処理メカニズムを見出すことができれば、健康な参加者と脳機能に問題を抱えている患者(自閉スペクトラム症や統合失調症等)との比較に使用するための指標になりうるのではないかと考えています。また、瞳孔散瞳を外部からコントロールすることによって、そういった脳処理を促進することができれば、病気の診断だけではなく、治療に役立っていくのではないかと期待しています。」

本研究は、文部科学省・日本学術振興会科学研究費基盤研究 A(26240043)、基盤研究B(17H01807)、の助成によって実施されたものです。また、筆頭著者の鈴木は文部科学省・日本学術振興会の実施する博士課程教育リーディングプログラムの支援を受けました。

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Reference

Suzuki, Y., Minami, T., & Nakauchi, S. (2018). Association between pupil dilation and implicit processing prior to object recognition via insight. Scientific Reports, 8(1), 6874. https://doi.org/10.1038/s41598-018-25207-z


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