News Release

環境制御型電子顕微鏡を利用して、高水蒸気圧下で高分解能観察を実現

Peer-Reviewed Publication

Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University

Gold Atoms in Water Vapor

image: Scientists imaged gold nanocrystals (shown here in false-color) using a 300kV electron beam, through 1.3kPa of water vapor. view more 

Credit: OIST

宇宙空間の真空レベルに近い環境が必要な電子顕微鏡の内部というものは、有機材料にとって非常に居心地の悪い場所です。 生命科学者たちは今日まで、試料を非晶質氷に包埋させることで、試料を傷つけずに顕微鏡に搭載し、この問題を回避してきました。 こうした中、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究者らは、 有機化合物の画像を捉える新しい方法を考案しました 。

その方法とは、有機試料を高水蒸気圧下で観察するというもので、これにより、高分解能で生物試料の観察に成功しました。顕微鏡で通常使用される電子ビームを利用して、高水蒸気圧下で観察することにより、生体試料が従来もつ湿った状態を保ちつつ、超高分解能画像での観察を実証しました。

PLOS ONE 誌に発表された本研究 は、生物学でよく知られている課題に物理学を応用したものです。 本研究成果をもってすれば、有機材料のイメージングにおいて、現在ある困難なプロセスを簡素化することができるかもしれません。

通常、 特に破損しやすい有機試料を高出力透過型電子顕微鏡で見るためには、科学者たちは多くの準備を施さねばなりません。ナノメータレベルの薄さの氷上に載せた試料の特定の結晶構造を作製するには、数多くのトライアルが必要です。本研究の筆頭著者であるOIST量子波光学顕微鏡ユニットのカハル・キャッセディ研究員は、数ヶ月を費やして、この困難なプロセスから従来とは異なる発想で、新たな観察法を開発しました。

「試料の準備段階で、同僚たちが多くの労力を使っているのを見てきたので、『この氷包埋を使った面倒な試料準備をどうにか回避できないだろうか』と考えたのです。」とキャッセディ研究員はコメントしています。

研究者らはまず無機物である金を用い、高水蒸気圧下で原子がうまく画像化できるかどうかを実証しました。 その後、同じ方法でウイルス試料を調べたところ、試料は安定性を保持し、結果として得られた画像は、比較的高分解能像で鮮明なものでした。

今回用いた方法では、試料を凍結させたり、低温チェンバーを通して試料を見る必要がありません。 このような従来使用されてきた方法は効果的ではありますが、様々な欠点があります。

例えば、試料を載せる氷は、クリーンな薄板として、もしくは比較的半透明なタイプの窓となることが理想です。なぜならば、そうすることにより、科学者は最小限の干渉で中にある試料を観察することができるからです。「生化学を新たな時代に向けて進展させた」として、スウェーデン王立科学アカデミーより讃えられたこの方法は、 2017年ノーベル化学賞受賞対象となりました 。 しかしこの凍結方法では、ウイルスと宿主細胞との生きた相互作用のような動的プロセスの研究はできません。

もう一つの、超薄型の窓付きチェンバー内に封入された液体中に浮かべる方法でも、有機試料を観察することが可能です。 窓は、液体が真空槽内に染み込んでしまったり、電子銃が損傷してしまったりすることを防ぐことができます。 ただ、これらの窓は大変薄く、バリアは最小限に抑えてはいるものの、試料の画質は低下します。 チェンバーの形状も、3Dで試料を観察する際、どの程度試料を傾けられるかという点で大幅な制約となります。

今回OIST研究者らによって考案された方法では、上記の一般的な方法に対し、実現可能な代替方法を提供してくれます。 新方法においては、試料は、試験管の中に高速で送り込まれる水蒸気の中に取り囲まれ、高水蒸気圧下で保持されます。 水蒸気はその後、高速で外に送り出されます。試料の上下には小さな開口部があり、電子ビームが直接通過することができます。 試料は氷やガラスに囲まれていないため、3D画像を観察するために傾けることができます。

キャッセディ研究員の本研究は、高水蒸気圧下で水分を含んだ試料の高分解イメージングに向けた第一歩であると強調しつつ、生物学者らが本研究成果を元に技術を積み上げて欲しいと抱負を述べます。 本研究及び元データを含む追加資料は PLOS ONE 誌に掲載されています。

「誰でもこの方法を試すことが可能です。誰かがバトンを受け取り、さらに技術を推し進めてくれれば、本当に嬉しいです。」と、キャッセディ研究員は本研究成果がもたらす可用性について期待を込めて語りました。

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