イガイの粘着特性を模倣した結合の緩いネットワークポリマーにより、柔軟性は損なわずに強度を上げたポリマー系材料の新しい製造方法が提示された。こういった素材は需要があるにもかかわらず、従来から製造工程が難しく、今回その困難が克服されたのである。 従来のポリマー強化方法にはフィルターの使用があるが、それは結局、剛性と伸縮性の二律背反であった。素材全体にエネルギーを行き渡らせる近年の技術(ネットワークを結合させたり、可逆的交差結合を使ったりすること)は、併用することで効果を強化できるが、そういった改良は柔らかで伸縮性が低く乾燥したネットワークに限られていた。湿った環境下でも接着する粘着剤を開発するにあたりイガイは長い間開発のヒントであり、その1つとして一般的にはカテコール類と呼ばれる化学的特徴を持つ有機化合物を含有させる方法があった。今回Emmanouela Filippidiらは複数のカテコール類を改変することでイガイの粘着特性(とりわけ足糸の糸と付着盤)に似た極めて伸縮性の高いポリマー系材料を開発した。この改変は鉄分子の添加で実現している。鉄分子によって、未処理の物に比べて770倍の剛性と92倍の強度を持つ耐荷重性の可逆ネットワークが作り出された。今回の研究結果により、強いが伸縮性もある素材の製造が可能になった。この方法は既存のポリマー強化機構と組み合わせることができ、それゆえに他の改変や建築・生体医用・航空宇宙材料での幅広い応用への道が開かれたとFilippidiらは述べている。関係するPerspectiveではWineyらがこの研究結果をさらに掘り下げている。
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