汚染された水の中で生き抜くために魚がどのように進化・適応してきたのかが、新しい遺伝子解析によって解明された。今回の結果は、高度な遺伝的多様性によって淘汰圧に対する個体群の急速な適応が促進される様子を、証明している。北米大西洋岸沿いの塩性湿地に生息するキリフィッシュ(卵生メダカ)は、近年致死水準に達した工業性の汚染物質に曝露され続けている。しかし、個体群の中には汚染物質への耐性を身につけた個体も存在する。この適応機構をより詳しく理解するため、Noah M. Reidらは384匹のキリフィッシュの遺伝子を解析した。今回解析されたキリフィッシュは、4つの地域で捕獲され、毒物への耐性を獲得した個体とそうでない(毒物に敏感なままの)個体の両方を含んでいる。 耐性のあるキリフィッシュの遺伝的多様性は、そうでないキリフィッシュに比べて低いことがわかった。これは、汚染地域での個体数の減少を意味している。淘汰パターンに基づき、研究者らは耐性のあるキリフィッシュの生存率の増加に関連のある遺伝子を幾つか特定し、とりわけアリル炭化水素受容体(AHR)の伝達経路に関連のある遺伝子が重要であることがわかった。研究チームは、毒物に曝された胚の成長過程でこの経路を調べ、耐性のあるキリフィッシュではAHR経路に関連する遺伝子の多くが欠如しており、耐性のないキリフィッシュでは見られなかった形でAHRの伝達に影響を与えている可能性があることを突き止めた。では、エストロゲンと低酸素状態の伝達、細胞周期の調整、さらには免疫系統の機能に関わっているAHR経路の抑圧は、どんな結果をもたらすのだろうか?著者らは、キリフィッシュにおけるAHR伝達機能の欠如を緩和する代替的な突然変異を特定した。これらの結果は、Michael ToblerとZachary W. CulumberによるPerspectiveでも取り上げられている。
###
Journal
Science