国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院先端電気電子部門の鈴木健仁准教授、同大学院工学府電気電子工学専攻の遠藤孝太氏(修士課程2年)、近藤諭氏(2018年3月修士課程修了)は、超高屈折率・無反射な新材料によるテラヘルツメタレンズの設計指針を構築しました。本研究グループが独自に開発した人工構造材料(メタサーフェス(注1))の特許を応用し、電磁波を変形、操作しています。平面で薄型なメタサーフェスは幅広いテラヘルツ波帯光源に集積化できることから、6G(Beyond 5G)以降も見据えた未来の通信への応用が期待されます。さらに本設計指針を数10テラヘルツ以上の赤外域へ適用することで、製鋼スラブなどから排出される熱放射を特定方向に集中させるなどの熱マネジメントへの応用が期待されます。
本研究成果は、米国光学会Optics Express(2020年7月13日付)に掲載されました。 URL:https://www.osapublishing.org/oe/abstract.cfm?uri=oe-28-15-22165
研究背景
現在、ミリ波よりも周波数が高く、可視光よりも周波数の低いテラヘルツ波帯の電磁波を利用した6G(Beyond 5G)通信が期待されています。また、高温の熱源から排出される熱放射(赤外域の電磁波)を再利用した熱マネジメントが待ち望まれています。これらのテラヘルツ波帯や赤外域の電磁波の制御にはドーム状の厚みを持ったレンズがよく用いられます。しかしながら、テラヘルツ波帯光源への集積化や製鋼スラブなどから排出される熱放射の制御に向けて、光源への集積化や既存の構造物・空間に後から導入するために、平面で薄型なレンズが求められています。
研究体制
本研究は、東京農工大学大学院工学研究院先端電気電子部門の鈴木健仁准教授と同大学院工学府電気電子工学専攻の遠藤孝太氏(修士課程2年)、近藤諭氏(2018年3月修士課程修了)により行われました。また、本研究の一部は国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業さきがけ「熱輸送のスペクトル学的理解と機能的制御」(研究総括: 花村 克悟)における研究課題「極限屈折率材料の深化と熱輻射アクティブ制御デバイスの開拓」(JPMJPR1815)、文部科学省科学研究費補助金基盤研究(C)(18K04970)、公益財団法人東電記念財団、公益財団法人稲盛財団の支援により行われました。
研究成果
本研究成果では、超高屈折率・無反射な人工構造材料のメタサーフェス(特許第6596748号)を応用したテラヘルツメタレンズ(図)の設計指針を1テラヘルツ(THz)以上の電磁波領域で構築しました。このメタレンズは、誘電体基板の表裏に対称に配置したカット金属ワイヤーによって作られた波長より小さな構造であるメタアトム(注2)で構成され、材料の誘電性だけでなく磁性も人工的に制御しています。また、周波数が高くなると金属の導電率の実部と虚部の両方を考慮する必要がでるため、カット金属ワイヤーの導電率はドルーデモデル(注3)による値を用いています。このような人工的な複合材料でできたメタレンズは非常に薄いことも特長です。一例として設計した厚さ約2マイクロメートル(1マイクロメートル=1000分の1ミリメートル)のメタレンズによって、3THzでパワー密度4.6倍の高指向性を実現できると見積もっています。
今後の展開
超高屈折率・無反射なメタサーフェスによるメタレンズをテラヘルツ波帯光源に集積化することで、6G(Beyond 5G)以降も見据えた無線通信でのビームフォーミング技術に貢献できます。さらに、本設計指針を数10THz以上の赤外域へ適用することで、製鋼スラブなどから排出される熱放射を特定方向に集中させるなど熱マネジメントへの応用が期待できます。
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用語説明
注1 メタサーフェス
原子より大きいが電磁波の波長に対しては微小なサイズの構造体を原子や分子に見立てて配列することで、自然界には存在しない電磁的性質(誘電率、透磁率)を実現できるスーパー材料(メタは“超”の意味)のこと。
注2 メタアトム
メタサーフェスを構成する電磁波の波長に対して微小なサイズの構造体のこと。
注3 ドルーデモデル
金属の自由電子の運動を運動方程式によってモデル化し、金属の導電率の実部と虚部を推定する手法のこと。
◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学 大学院工学研究院
先端電気電子部門 准教授
鈴木 健仁
E-mail: takehito(ここに@を入れてください)go.tuat.ac.jp
◆JST事業に関する問い合わせ◆
科学技術振興機構 戦略研究推進部
グリーンイノベーショングループ
嶋林 ゆう子E-mail: presto(ここに@を入れてください)jst.go.jp
Journal
Optics Express