核融合燃焼プラズマを実現するためには、高温、高密度プラズマを定常に維持することが必要です。核融合科学研究所の大型ヘリカル装置(LHD)を用いたこれまでのプラズマ研究では、ヘリカル型磁場閉じ込めプラズマの特長を生かして、プラズマの定常運転、高密度化に非常に優れた特性を持つことを実証してきました。そして、高温度化の実現が大きな課題となっていました。発電という実用化を目指している核融合反応は、重水素と3重水素の反応であり、その反応断面積は1億度から10億度の間で最大となります。1億度を下回ると急激に反応が起こりにくくなり、温度が1/10になると核融合の反応断面積は、1/10000となってしまいます。つまり、核融合燃焼を維持するためにはイオン温度が1億度を超えるプラズマが必須となります。LHDでもこれまで軽水素プラズマの高温度化を目指した実験を行ってきましたが、1億度を達成することはできませんでした。
今回の実験では、プラズマの高温度化に取り組みました。LHD実験では、プラズマを加熱する方法として、外部からビームを入射するプラズマ加熱(NBI加熱)を行っています。NBI加熱として、正イオンを加速する方法と負イオンを加速する方法の両方を行っています。正イオンビームは、軽水素ビームから重水素ビームへ切り替えると高エネルギー化することによりビーム電力の増加が可能です。一方、負イオンビームはビーム電流値が減少してしまい、ビーム電力は減ります。つまり、正イオン重水素ビームと負イオン軽水素ビームを組み合わせることで、加熱電力は最大となります。この手法によりこれまで以上の大電力ビームプラズマ加熱実験を行いました。その結果、ヘリカル型で初めて1億度のイオン温度を持つプラズマ生成に成功しました。この高イオン温度プラズマは、内部熱輸送障壁(ITB)と呼ばれる構造を持っています。ITBが形成されると熱輸送が抑えられ、急峻な温度勾配が形成されることにより、プラズマ中心領域が特に高温になることができるのです。軽水素プラズマの実験で発見されていたプラズマ中に混入した不純物イオンを選択的に吐き出す性質は、この1億度を超える重水素のITBプラズマでも確認されました。つまり、核融合炉心プラズマに適した特徴を持っていることも確認できました。今後は、1億度を超えるプラズマの輸送特性を詳細に調べることを精力的に行う計画です。水素プラズマと重水素プラズマの性質を詳細に調べることにより、磁場閉じ込めプラズマ実験の長年の謎の一つであるプラズマ中の熱輸送に対するイオン質量依存性(同位体効果)の解明にも繋がる成果が期待されています。
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