News Release

酸化チタンナノチューブとパルスレーザーを用いた 低コストな細胞内デリバリ技術の開発

Peer-Reviewed Publication

Toyohashi University of Technology (TUT)

(a)酸化チタンナノチューブ上で培養した細胞と(b)ナノチューブアレイとパルスレーザーの相互作用を利用した大規模並列光穿孔の模式図

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<概要>

豊橋技術科学大学 機械工学系 永井萌土准教授とMohan(モハン) Loganathan(ロガナタン)研究員らは、酸化チタンナノチューブ(Titanium oxide Nanotube: TNT)を用い、ナノ秒パルスレーザー照射による高効率な細胞内デリバリ法を開発しました。チタンの電気化学的陽極酸化法により、低コストな方法でTNTを形成し、続けてこのナノチューブ上にがん細胞(HeLa,ヒト子宮頸癌細胞)を培養して、生体分子溶液中でナノ秒パルスレーザーを照射し、細胞膜を穿孔しました。この技術を用いて、ヨウ化プロピジウム(PI)と蛍光デキストランを高い導入効率と細胞生存率で細胞内に導入することに成功しました。

<詳細>

豊橋技術科学大学 機械工学系 永井萌土准教授とMohan(モハン) Loganathan(ロガナタン)Mohan研究員らは、酸化チタンナノチューブ(Titanium oxide Nanotube: TNT)を用いたナノ秒パルスレーザー支援型の光穿孔法を開発し、高効率な細胞内デリバリを実現しました。

細胞医療や再生医療のためには、細胞の生存率とトランスフェクション能力が高く、生きている細胞に外部分子をデリバリする手法が重要です。細胞内デリバリ法は、導入分子量の制御や目的に応じたデリバリを実現し、副作用を軽減するために進歩してきました。これらの手法は、ウイルス法、物理的手法、化学的手法に分類されます。 この内、パルス光照射による細胞内デリバリは、細胞への侵襲性が低く、ここ数年で細胞内デリバリの新しい手法として注目されています。ここでは細胞を穿孔するために、パルス光を吸収させる金ナノ粒子などを溶液中に分散して利用されますが、材料が高価であることが課題でした。デリバリ効率と細胞生存率を高めたまま、よりコストを低減したナノ材料を用いることが望ましいです。

本研究グループでは、光照射に基づく細胞内デリバリのための費用対効果の高いナノチューブアレイを設計し、作製しました。異なる電圧と時間において、電気化学的陽極酸化技術を用い、チタンシート上にTNTを形成しました。X線光電子分光法(XPS)での計測により、異なる陽極酸化電圧と時間で形成されたTNTには、微量のTi金属(Ti0)とともに、濃度の異なるTiO2, TixOy(TiO/Ti2O3/Ti3O5)のような異なるチタン酸化物種が存在しました。酸素欠陥の形成により、ナノチューブは半金属および金属的特性を有します。このような性質を持つナノチューブは、ナノ秒パルスレーザーを照射した後、様々なメカニズムで細胞内へのデリバリを促進する可能性があります。形成したTNT上に細胞を培養した後、生体分子溶液を導入し、波長532nmのナノ秒パルスレーザーを照射しました。ヨウ化プロピジウム(PI)とデキストランをHeLa細胞(HeLa,ヒト子宮頸がん細胞)に高いトランスフェクション効率と細胞生存率で導入することに成功しました。細胞膜穿孔の原理としては、熱を介したナノバブル、光化学的に誘起される活性酸素種(ROS)、ナノチューブから細胞膜への熱伝達、局所的な表面プラズモン共鳴高電磁場増強の各ナノチューブ上での形成、といった可能性があります。これにより、細胞膜-ナノチューブ界面にキャビテーション性ナノバブルが形成され、急速に成長、合体、崩壊して爆発を起こし、細胞膜穿孔を引き起こし、生体分子を細胞外から細胞内に送り出したと考えられます。

低コストに作製できる酸化チタンナノチューブは、ナノ秒パルスレーザーを用いた細胞内デリバリのための多目的プラットフォームになりえます。このデバイスの特徴は、高効率と細胞生存率を備え、並列で制御された均一なデリバリであることで、細胞治療や再生医療への応用が期待できます。

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<論文情報>
Mohan L, Srabani Kar, Ren Hattori, Miho Ishii-Teshima , Parthasarathi Bera, Sounak Roy, Tuhin Subhra Santra, Takayuki Shibata, and Moeto Nagai. "Can Titanium oxide Nanotubes Facilitate Intracellular Delivery by Laser-Assisted Photoporation?." Applied Surface Science, Volume 543, 30 March 2021, 148815
doi.org/10.1016/j.apsusc.2020.148815

本研究は、日本学術振興会科学研究費(16H06074,20H02115)、特別研究員奨励費、および文部科学省卓越研究員事業の助成を受けて行われました。


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