News Release

網膜の知られざる光応答を顕微鏡観察で発見

光センサー細胞が暗黒に反応した

Peer-Reviewed Publication

Kyoto University

video: These two mice are seemingly the same, but under blue light, one mouse glows green. This green mouse is a transgenic PKAchu mouse that changes color when the protein PKA is activated. Taking a sheet of retinal cells from PKAchu, you can see that PKA is activated by darkness only in the stimulated area view more 

Credit: Kyoto University/Matsuda Lab

京都大学大学院生命科学研究科の佐藤慎哉助教、松田道行教授、および理学研究科の山下高廣助教の研究グループは、網膜内の酵素の働きを観察する顕微鏡法を開発して、cAMP依存性キナーゼ( PKA)と呼ばれる酵素が光オフ、すなわち暗黒をきっかけにして網膜内での働きを強めることを世界で初めて発見しました。以前より、松田教授のグループでは生物内部で働く様々な酵素の働きを蛍光顕微鏡で直接観察する技術の開発を進めてきました。今回の発見は、その技術が生み出した遺伝子改変マウスPKAchuを網膜の研究に応用することで実現されました。本研究ではさらに、顕微鏡の高い解像度を生かして、PKAの働きが強まるのは桿体視細胞と呼ばれる、暗所視力を担う光センサー細胞だけであることも突き止めました。

当研究室が2012年に作製した遺伝子改変マウスPKAchuは、cAMP依存性キナーゼ( またはプロテインキナーゼA、PKA)と呼ばれる体の中で幅広い機能を持つ酵素の働きを顕微鏡で観察することを可能にしました。PKAchuはこれまでに脳の神経細胞や、血液中の細胞の一種である好中球の研究に活用されてきましたが、私たちは今回初めて網膜を対象とする研究を行いました。 PKAchuの網膜を蛍光顕微鏡で観察することで、一つ一つの網膜細胞が持つPKAの働きを色に変換して見られるようになりました。ある日、PKA活性の観察をしながら網膜に強い光を6秒という短時間だけ当てる、という実験を試したところ、光が当たったところでだけPKAの働きが約15分間強くなることを発見しました図1)。そこで次に、10分間という長時間に渡って強い光を当てる実験を行ったところ、予想外にも光オンではなく、光オフ、つまり暗黒がPKAの働きを強めていることが分かりました( 図2)。さらに、厚みが約200ミクロンあるPKAchu網膜の表面から裏面までを同時観察したところ、暗黒でPKAの働きが強くなるのは桿体視細胞と呼ばれる、暗所視力を担当する光センサー細胞だけであることが判明しました( 図3)。さて、我々の眼は明るいところから暗いところに移動した際、30分以上かけてゆっくりと暗闇に慣れる機能、暗順応の仕組みを持っています。私たちは、今回発見した暗黒をきっかけに起こる桿体PKA活性化が、これまでに知られていなかった暗順応を補助する仕組みではないかと考えています。

今後の予定本研究で注目したPKAは、細胞の中で環状AMPと呼ばれる物質を検出すると働く酵素です。実は、網膜の環状AMP量が光で変化することは約50年前から知られていました。しかし技術的な問題から、この現象を詳細に調べた研究はほとんどなくなぜ環状AMP量が光で変化するのか?」という疑問に対する明確な答えはまだ出ていません。今回の技術開発で、PKAの働きを一つ一つの網膜細胞で分析することが可能になりましたので、上記の疑問に答えを出したいと考えています。また、私たちのグループではPKAだけではなく、色々な分子の働きを観察する顕微鏡技術を持っています。網膜は、光情報を検出して脳に伝達するという特別な役割を持つことから、PKA以外にも光と闇にまつわる特別な機能をたくさん持っていると考えられます。今後も網膜内の知られざる分子の働きを、顕微鏡などを使った丁寧な観察で発見していきたいと思っています。

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