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2015-2016年にインドネシアで流行した小児急性胃腸炎はEquine-like(ウマ様)G3ロタウイルスによる

Peer-Reviewed Publication

Kobe University

図1. インドネシアで流行したEquine-like G3 ロタウイルス株

image:  ●がインドネシアで同定されたロタウイルス株。 従来のヒト型ロタウイルス(左上)と遺伝学的に大きく異なる。 view more 

Credit: Kobe University

神戸大学大学院医学研究科附属感染症センターの勝二郁夫教授、内海孝子特命講師と国立感染症研究所の片山和彦室長(現、北里生命科学研究所教授)らの研究グループが、インドネシアの小児急性胃腸炎症例の便中ロタウイルスを解析し、2015年から2016年にEquine-like(ウマ様)G3ロタウイルスが流行していたことを証明しました。このロタウイルスは、従来のヒト型ロタウイルスと遺伝学的に大きく異なっています。研究成果によって、近隣国からインドネシアへのロタウイルス株の伝播様式の解明が期待されます。

研究成果は、2018年3月27日(火)に、国際科学誌「Infection, Genetics and Evolution」(doi: 10.1016/j.meegid.2018.03.027) にオンライン公開されました。

なお、この研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の感染症研究国際展開戦略プログラム(J-GRID)による支援の下、アイルランガ大学熱帯病研究所内に設立したインドネシア神戸大学国際共同研究拠点で行いました。

ポイント

  • A群ロタウイルス※1はワクチンが実用化されているが、国によりワクチンの有効性が異なることが報告され、国により流行株が異なる可能性が示唆されています。
  • ロタウイルスは二本鎖RNAウイルス、11分節ゲノムで構成され、再集合体(リアソータント)※2が出現し、多彩な進化を遂げる可能性があります。
  • インドネシアのA群ロタウイルス流行株を明らかにするために、2015-2016年の1年間にインドネシア国スラバヤ市の病院を受診した5歳未満の急性胃腸症患児134人から糞便検体を収集し、134検体中42検体(31.3%)からA群ロタウイルスを検出しました。ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)解析から稀なウイルス株G3P[8]またはG3P[6]と考えられました。
  • 次世代シークエンサーで11検体のウイルスゲノムを解析したところ、すべてがDS-1-like遺伝子構成のEquine-like G3ロタウイルス※3でした。
  • 2015年から2016年にインドネシアで、従来のヒト型ロタウイルスと遺伝学的に大きく異なるEquine-like G3ロタウイルスが流行したことが明らかとなりました。
  • 研究成果は、近隣国からインドネシアへのロタウイルス株の伝播様式の解明に貢献すると期待できます。

研究の背景

A群ロタウイルスは小児に重篤な下痢症を引き起こすウイルスで、ヒト以外にも様々な動物種に下痢症を引き起こします。二本鎖RNAウイルスで、11本の分節ゲノムからなり、新しい遺伝子構成をもつウイルス(遺伝子再集合体、リアソータント)が出現して、多彩な進化を遂げる可能性があります。インドネシアと我が国は地理的にも近く古くから交流が盛んで、感染症の伝播経路としてきわめて重要です。しかし、インドネシアにおけるロタウイルス感染症の疫学情報が乏しく詳細が明らかでありませんでした。2006年にロタウイルスワクチンが開発され、我が国やインドネシアを含めた多くの国々で使用されていますが、近年、ロタウイルスワクチンの有効性が国により異なることが報告され、その原因の1つとして、国により流行株が異なることが示唆されています。

研究の内容

我々はインドネシア国スラバヤ市の急性胃腸炎の小児の便中に存在するロタウイルスゲノムの分子疫学解析を行いました。2015年から2016年の1年間に、急性胃腸炎でスラバヤ市の小児病院を受診した5歳未満の小児134人(男児71人、女児63人)から便検体を収集しました。イムノクロマトグラフィでのA群ロタウイルス診断では、134例中42例で(31.3%, 42/134)A群ロタウイルスが陽性でした。(PAGE)解析から、稀なウイルス株G3P[8]またはG3P[6]と考えられました。11例のウイルスゲノムを次世代シークエンサーで解析し、DS-1-like遺伝子構成のEquine-like G3ロタウイルスであることが判明しました。この株はオーストラリア、ハンガリー、スペイン、ブラジルで報告されていますが、従来のヒト型ロタウイルスと遺伝学的に大きく異なる株です。今回の解析から、2015年から2016年の1年間にDS-1-like遺伝子型構成をもつEquine-like G3ロタウイルスG3P[8]、G3P[6](図1)がインドネシアで流行していたことが示されました。

今後の展開

今後はインドネシアのロタウイルス流行株の経時的変化を解析し、インドネシア近隣国からインドネシアへの伝播様式を解明すると共に、我が国でのロタウイルス感染症流行への影響について調べる予定です。また、ワクチン接種例の検体を解析し、ワクチンで誘導される免疫に抵抗する株のゲノム情報を解析し、我が国への流入を阻止するための監視体制の確立を目指します。

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用語解説

※1 ロタウイルス: レオウイルス科、ロタウイルス属に分類され、二本鎖RNA, 11本の分節ゲノムからなるウイルスです。小児の下痢症の主要な原因で、冬季乳幼児嘔吐下痢症の原因ウイルスです。

※2 遺伝子再集合体、リアソータント: 異なる2つのウイルス株が同一細胞に感染した場合に分節RNAを交換し、新たに生じたウイルスを遺伝子再集合体(リアソータント)といいます。

※3 DS-1-like遺伝子構成のEquine-like G3ロタウイルス:ロタウイルスの遺伝子型別法は全遺伝子型構成(11遺伝子分節)を解析し、VP7-VP4-VP6-VP1-VP2-VP3-NSP1-NSP2-NSP3-NSP4-NSP5の遺伝子構成を比較します。近年わが国で流行しているロタウイルス株のVP7遺伝子型はG1, G2, G3, G9が主で、Wa-like 遺伝子構成 (P[8]-I1-R1-C1-M1-A1-N1-T1-E1-H1)を有していました。しかし、DS-1-like遺伝子構成のEquine-like G3ロタウイルス株はVP7がウマロタウイルスに類似し、VP4がP[8]またはP[6]で、DS-1-like遺伝子型構成 (I2-R2-C2-M2-A2-N2-T2-E2-H2)を有しており、従来のヒト型ロタウイルスと遺伝学的に大きく異なっていました。


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