News Release

発達期の脳神経回路形成研究に新展開

不要な配線を刈り込みながら、新たな配線を助ける

Peer-Reviewed Publication

Osaka University

Spike Timing-dependent Plasticity Figure

image: Two opposite forms of spike timing-dependent plasticity (STDP) converge onto L2/3, spike timing-dependent long-term potentiation (t-LTP) from L4 and spike timing-dependent long-term depression (t-LTD) from the thalamus during the second postnatal week. Thalamic projection to L4 lost STDP at this age. Thalamic activity may facilitate L4-L2/3 synapse formation by t-LTP, while simultaneously weakening and retracting from direct innervation of L2/3 by t-LTD through CB1R, thus, reorganization of neural circuits may proceed in a self-organizing manner. Illustration adapted from Itami et al (2016) with modifications. view more 

Credit: Osaka University

大阪大学大学院医学系研究科の木村文隆准教授(分子神経科学)らの研究グループは、神経回路ができていく時に、先にできた余分な回路を整理しながら、それが足がかりとなって、新たな回路の形成を促す可能性があることを見出しました。

神経回路ができるときには、最初はしばしば広範囲に神経細胞が突起を伸ばし(投射し)ますが、そのうち不要な部分が削られ(刈り込まれ)て、正しい投射だけが残ります。何故このような、一見無駄に見える現象が起こるのかは明らかではありませんでした。

本研究成果により、神経回路形成のメカニズムの理解がさらに進むことが期待されます。また、神経の刈り込みにはカンナビノイド(大麻の有効成分)が関与していることから、カンナビノイドの摂取は、カンナビノイド受容体を持たない神経回路形成にも影響を与える可能性があることが分かったため、大麻や危険ドラッグの乱用減少の啓発にも貢献が期待されます。

研究の背景

視覚や聴覚、味覚、触覚など、外界からの感覚情報は“視床[1] ”と呼ばれる脳内の領域に集まり、そこから“大脳皮質[2] ”へ送られます。視床から大脳皮質へ情報を送るため、神経細胞は突起を伸ばします(投射)。神経回路のネットワークは、発達に伴って形成・再編されて行きますが、その詳しいメカニズムは分かっていません。

これまでに、本研究グループは、未熟な大脳皮質では、一旦広く投射ができた後、大脳皮質の成長に伴って、4層、2/3層ができる頃から、2/3層への不要な投射が削られていくこと(刈り込み)を見出しています。また、視床と2/3層の細胞がほぼ同時に活動したときには、カンナビノイド[3] の受容体が働いて、神経細胞間のシナプス[4] の強度が低下し、同時に刈り込みが起こることも分かっています(http://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2016/20160630_1)。一方、4層の細胞は2/3層への神経接続を作り始めており、4層と2/3層の細胞がほぼ同時に活動したときにシナプスの強度が上昇します。

本研究の成果

今回、研究グループは、視床が4層にも投射している(図・実線)ことに着目し、視床と2/3層の細胞が同時に活動しているときは、必然的に4層と2/3層の細胞も同時に活動していることになるため、視床線維の刈り込みと4層細胞のシナプス形成が同時進行している可能性を検証しました。

そこで、生後2週間のマウスの視床と2/3層に、ほぼ同期する活動を与えてシナプス弱化を起こしたところ、直接には何の操作も与えていないにもかかわらず、4層と2/3層の細胞の間にはシナプス強化が起こっていました(図・赤線)。これは、先行投射(視床―2/3層投射、図・点線)は決して無駄に広がっていたのではなく、次の神経接続のための足がかりとなって、撤退していきながら、4層細胞に2/3層へのシナプス形成を促す、いわばガイドのような役割を果たしているともいえ、自動的に神経回路の形成が進んでいくことが伺えます。

また、視床-2/3層シナプスの弱化と刈り込みは、このシナプス部にあるカンナビノイド受容体の働きによって起こります。ここで、「大麻」などカンナビノイド成分が含まれる化合物を摂取すると、カンナビノイド受容体を視床細胞の神経活動と無関係に活性化し、視床-2/3層投射に刈り込みだけが起きて、4層-2/3層投射形成が同時に起こらないことになり、足がかりを失った4層-2/3層投射は、正常な回路が形成されない可能性が考えられます。つまり、カンナビノイドの摂取は、足がかりとなる先にできた神経を刈り込むため、カンナビノイド受容体を持たない神経回路にも異常が出る可能性があることを示唆しています。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、神経回路形成のメカニズムの理解がさらに進むことが期待されます。また、カンナビノイド成分が含まれる大麻などの摂取は、カンナビノイド受容体を持たない神経の発達にも影響を与える可能性があることから、大麻や危険ドラッグの乱用減少の啓発にも貢献が期待されます。

研究者のコメント

<木村准教授>

これまで、あるシナプスに起こった変化が他のシナプスに及ぶという現象はいくつか知られていましたが、今回のようにネットワークとしてこのようなことが起こるというのは初めてのことです。また、今回の結果から、大麻(カンナビノイド)の摂取は、カンナビノイド受容体を直接には持たない神経線維にも影響を与える可能性が出てきました。気軽に手を出すのはやめましょう。

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用語解説

※1 視床
視床は脳のほぼ中央に位置し、感覚情報(体性感覚、痛覚、視覚、聴覚、味覚など)を大脳皮質へ送る領域。

※2 大脳皮質
脳の表面部分。人間の知覚、随意運動、思考、推理、記憶、言語など、高次機能を司る。

※3 カンナビノイド
大麻(マリファナ)に含まれ、摂取による精神作用を起こす有効成分(テトラヒドロカンナビノール:Δ9THC)と同様の作用を起こす化学物質類の総称。神経細胞に直接作用し、神経細胞間(シナプス※4 )での情報伝達を阻害する。その受容体は脳内に広く存在する。

※4 シナプス
神経細胞間のつなぎ目で、ここでは情報が一方向(シナプス前細胞からシナプス後細胞へ)に受け渡される。この時の反応の大きさが、シナプス同士の結合の強さを決め、情報処理を大きく左右する。


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