パリ協定で示されている通り温度上昇を工業化以前の水準と比較して1.5℃に抑えることで、地球温暖化による海洋生態系の漁獲可能量への影響が大幅に削減され、捕獲される種のターンオーバー(生物種の入れ替わり)が抑制される、と新しい研究結果が示している。今回の結果は、温度上昇が1.5℃から3.5℃に達すると漁業のための海洋バイオマス(生物量)の減少量が3倍増加するとし、国際社会が着実に1.5℃目標を達成することが急務となっていることを浮き彫りにしている。様々な温暖化シナリオが海洋生態系に与える影響をより詳細に理解するため、William Cheungと共同研究者らは19種類の地球システムモデルのデータを解析し、非常に有効な緩和努力が実施された場合と高排出量シナリオが将来も続く場合の反応を調べた。著者らは漁獲対象である892種の海水魚と無脊椎動物にモデルを適用した。その結果、温度が3.5℃上昇すると世界の最大漁獲可能量が8%減少するのに対し、温度上昇が1.5℃の場合は最大漁獲可能量の減少が2.5%であると推定された。しかし、より厳しい昇温条件下における影響は地域によって異なり、より深刻な影響を受ける地域も存在する。例えば、ベンガル湾、タイランド湾、南シナ海、およびスールー海・セレベス海を含むインド太平洋地域の最大漁獲可能量は最大で47%減少する可能性がある。生物種のターンオーバーも世界の温度変化によって変動し、3.5℃以下の上昇の場合の種のターンオーバーは1950年から1969年の間に観測された平均的な種の多様性の約22%で、上昇が1.5℃に抑制された場合は8%となると予測されている。著者らは上記以外の地域限定的な予測についても言及している。著者らは今回のモデルで使われた仮定にも言及しているが、今回の結果はこれらの仮定によってむしろ過小評価となっていると強調している。Elizabeth A. FultonによるPerspectiveで今回の結果の詳細を解説している。
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