心的外傷後ストレス障害(PTSD)患者184例を対象とした神経画像研究により、現在PTSDに対する標準治療であり、効果的な唯一の治療法である話し合い療法(心理療法)における治療奏効を予測する特有の脳活動パターンが明らかにされた。この研究結果から、PTSDという広い臨床カテゴリー内における神経行動の新たなサブタイプが明らかになり、また患者によって治療奏効がそのように異なる理由についての洞察が提供される。PTSDは、重度の心的外傷イベントや極度にストレスのかかる状況を経験した人(軍人に多い)が発症する精神疾患である。多くの患者は心理療法が奏効せず、極めて多様な症状と行動のパターンを示すため、PTSDの基礎にある生物学的機序を理解しようとする試みが妨げられてきた。今回Amit Etkinらは神経画像技術を用いて、PTSD患者の脳内における認知機能および神経生物学的プロセスのさらなる解明を試みた。未治療の患者56例(ほとんどが戦闘の経験者)と対照者36例の評価を行ったところ、患者は対照者と比較して学習課題の実行時に言語記憶の障害を示すことが分かった。興味深いことに、最も重度の言語障害を示した患者では、刺激に対する注意を調節する脳内の感覚系である腹側注意ネットワーク(VAN)に異常が認められた。この観察は、PTSDを有する兵役経験者128例と対照者117例から成る第二のコホートでも行われた。その結果、重要な所見として、言語記憶およびVAN機能の障害を示す患者は心理療法後の転帰がより不良であったのに対し、言語記憶またはVAN機能が正常であった患者では心理療法の奏効がより良好であった。Etkinらは、今後の研究では、VAN機能および言語記憶の研究により治療転帰が予測できるかどうかを、双極性障害や薬物依存症などの他の病態でも検討すべきだと述べている。関連するQ&A transcriptで著者らは、どのPTSD患者が治療に適した候補者なのかを強く予測するものとして、FDAの承認を受ける脳内の指標を確立するという彼らの研究の次なるステップを要約している。
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Journal
Science Translational Medicine