ヒトや動物は,手足を動かした際に,脳の神経細胞から微弱な神経電位を生じます.この神経電位の解析は,ヒトとロボットを繋ぐブレインマシンインターフェイス(BMI:Brain Machine Interface)の実現に向けて盛んに研究されています.現在,ワイヤを用いて脳表面に埋め込まれた電極から神経電位の計測が行われていますが,頭蓋骨の開口部から感染症を引き起こす懸念があります.そのため,長期間にわたって脳の信号を観測するために,生体内に完全に埋め込む無線神経インターフェイスの開発が要求されています.
しかし,頭部へ埋め込む神経インターフェイスは,埋め込む際に生体にダメージを与えないために,小型かつ低侵襲でなければなりません.また,増幅器や信号処理等の高機能な回路と,通信をするためのアンテナ,さらにデバイスを駆動する電源が必要になります.
豊橋技術科学大学,電気・電子情報工学系の研究者らは,半導体デバイスのパッケージ技術を用いて,シリコン基板による高機能かつ小型な回路チップを,厚さ10μmのフレキシブルフィルムに実装する手法を開発しました.研究者らは,無線神経インターフェイスに電力を伝送するために,提案した製作手法を用いて,整流器チップとフィルムアンテナを一体化した無線電力伝送デバイスを製作しました.
「我々は,無線電力伝送デバイスを実現するために,如何にして高効率なアンテナを実現し,回路機能を集積するかを検討した.そして,今回,薄膜かつ大面積のフィルムアンテナに対して,シリコン基板で製作した回路チップを実装する手法に挑戦した.」と,第一著者の岡部は述べています.
また,本プロジェクトを先導する秋田助教によると,「近年盛んに研究が行われているフレキシブルデバイス技術は,アンテナやセンサ・電極などの実現に非常に有用である.一方で,長い歴史を持つシリコン集積回路技術は,低消費電力・高機能なシステムを実現できるため,それぞれの技術が得意とする領域を適切に融合させることで,最適なシステムを実現することができると考えている」と方向性の意義について述べています.
製作されたフレキシブルデバイスは,5mm�27mmの面積であり,シリコン基板による回路面積は全体の3%を占めています.そのため,本デバイスは,大部分がフレキシブルフィルムで構成されており,脳の形状に対して柔軟に密着します.また,製作したデバイスを水槽に浸して,10cmの距離で無線電力を伝送することに成功しました.
埋め込みデバイスに無線電力を供給する事により,様々な回路を駆動する事が可能になります.研究者らは,今後,シリコンチップに更なる回路機能を搭載し,無線で脳の信号を取り出す事を目指しています.無線神経インターフェイスは,ヒトに不自由の無い義肢を提供するBMIシステムの構築に貢献します.
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ファンディングエージェンシー:
本研究は,文部科学省・日本学術振興会科研費・基盤研究(A)25249047,若手研究(A)15H05525並びに若手研究(B)25820141の支援を受けて遂行されました。
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