News Release

腸呼吸の応用により、呼吸不全の治療に成功!

腸換気技術を用いた新たな呼吸管理法の開発へ光

Peer-Reviewed Publication

Tokyo Medical and Dental University

Fig 1. Schematic diagram of EVA method

image: Based on the fact that loaches have intestinal respiration under hypoxic conditions, the efficacy of the EVA method was examined in mammals such as mice and pigs. The EVA method may be effective for patients with respiratory failure. view more 

Credit: Institute of Research,TMDU

 東京医科歯科大学統合研究機構の武部貴則教授の研究グループは、名古屋大学大学院医学系研究科呼吸器外科学(芳川豊史教授)及び京都大学呼吸器外科(伊達洋至教授)との共同研究で、重篤な呼吸不全に対して、腸換気法が有効であることをつきとめました。なお、本研究はAMED 2021年度 新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する研究」(研究代表者:武部貴則)、AMED 2020年度 新興・再興感染症に関する革新的医薬品等開発推進研究事業「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する治療薬開発」(研究代表者:武部貴則)、『「橋渡し研究戦略的推進プログラム」東京大学拠点シーズA(19lm0203003j0003~21lm0203003j0005 研究代表者:武部貴則)、京都大学拠点シーズA(19lm0203006j0003研究代表者:芳川豊史、20lm0203006j0004 研究代表者:田中里奈)』 、科研費(19K22657 研究代表者:芳川豊史)等の支援により行われたもので、その研究成果は、国際科学誌Med(メッド)に、2021年5月14日午前11時(米国東部時間)オンライン版で発表されました。

【研究の背景】  

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連重症呼吸器合併症においても認められる低酸素血症を伴う呼吸不全※1に対し、生命維持を目的として人工呼吸器や人工肺※2(ECMO)による集中治療が行われています。しかし、これらの医療機器は、高度な専門性と莫大な費用が必要とされることに加え、治療に伴う身体への負担や侵襲が大きいことが課題とされていました。そのため、従来治療の負担を軽減するため、新たな呼吸管理法の開発が待望されていました。

【研究成果の概要】

 水棲生物の中には、ドジョウの様に低酸素環境下で生存するために腸から呼吸をするという独特な仕組み※3を持つ生物が存在します。しかし、腸を介したガス交換が哺乳類についても可能かどうかは解明されていませんでした。今回、東京医科歯科大学、名古屋大学、京都大学らの共同研究グループは、腸を用いたガス交換を行うことにより、血中酸素分圧の上昇を可能とするEVA法を開発しました(図1)。

 まず、マウスに対して腸管内に純酸素ガスもしくは酸素が豊富に溶けたパーフルオロカーボン※4を注入する2つの方法(EVA法、図2A、2D)を開発しました。さらに、マウスⅠ型呼吸不全モデル※1を作成し、EVA法を検証しました(図2B、2C、2E)。次に、ラットを用いて、治療による重篤な有害事象が認められないか安全性試験を行いました。慶応義塾大学医学部・小林英司客員教授協力の下、ブタモデルを用いてEVA法の有効性検証を実施しました(図2F)。    

その結果、マウスにおいて、2つのEVA法のいずれも血中の酸素分圧が著しく低下した重篤な呼吸不全状態を改善し、生存率(図2B)、行動変容、全身の酸素化(図2C、2E)を大幅に改善することが分かりました。またラットを用いた安全性試験においても腸管粘膜の損傷や障害は認められず、血液生化学検査や病理組織学的評価においても明らかな副作用は認められませんでした。さらに、Ⅰ型呼吸不全モデルブタを用いた実験においても、治療に伴う重篤な合併症は生じず、全身の酸素化を大幅に改善することが示されました(図2F)。

【研究成果の意義】  

EVA法は、臨床現場において新たな呼吸管理法としての応用可能性を有しており、肺を直接介さずに呼吸不全を緩和できる可能性があります。臨床現場への応用を実現するためには、EVA法に使用されるデバイスを医療用機器として開発していくことが求められるため、企業等とも協力のうえ、臨床現場で運用が可能な手法を開発し、さらなる有効性と安全性を検証していくことが必要です。将来的には、人工肺や人工呼吸器の離脱促進や、呼吸不全の症状緩和を目的とした補助的使用など、様々な臨床シーンでの展開が期待されます。さらに、従来治療の適応外の患者さんへの使用、救急領域においては上気道閉塞の患者さんに対する急性期の呼吸管理法としての利用も想定されます。

###

【用語解説】

※1呼吸不全・・・呼吸不全とは様々な病気によって呼吸する機能が低下した結果、血液中の酸素濃度が異常に低くなったり、二酸化炭素が異常に高くなったりする病気です。血管(動脈)の血中酸素分圧が60 mmHg以下になることを呼吸不全と定義し、二酸化炭素の増加が伴わない場合(45 mmHg以下の場合)をⅠ型呼吸不全、二酸化炭素の増加を伴う場合(45 mmHgを超える場合)をⅡ型呼吸不全といいます。

※2人工肺(ECMO)・・・ECMOはExtracorporeal membrane oxygenationの略です。人工肺とポンプを用いて体外循環回路によって生命維持することが可能になっています。重症の呼吸不全や循環不全の患者さんに用いられ、新型コロナウイルス感染症の患者さんの一部に対しても用いられています。

※3腸呼吸・・・ドジョウは低酸素環境になると、腸を介して酸素を取り込むことが知られています。酸素を取り込んでいる後腸といわれる領域では腸粘膜が菲薄化し、毛細血管が豊富であることが知られています。

※4パーフルオロカーボン・・・炭素とフッ素のみから構成される化学物質です。酸素が非常によく溶けることが知られています。現在日本では眼科の手術の際に用いられることがあります。


Disclaimer: AAAS and EurekAlert! are not responsible for the accuracy of news releases posted to EurekAlert! by contributing institutions or for the use of any information through the EurekAlert system.