News Release

水素負イオンの振る舞いを解明

負イオンの流れの逆転を初めて観測

Peer-Reviewed Publication

National Institutes of Natural Sciences

Beam Energy Dependence of Beam Injection Power

image: The current density reached 340 A/m2 at the maximum injection power. This value is comparable with the target of the ITER NBI. view more 

Credit: Dr. Masashi Kisaki

【研究の背景】

プラズマ加熱に用いられる中性粒子ビーム入射加熱装置(NBI)は、水素正イオンまたは水素負イオンを高エネルギーに加速し、中性粒子に変換してプラズマに入射します。水素正イオンを用いた場合、ビームのエネルギーが100 keV以上になると中性粒子ビームへの変換効率が低下します。一方、核融合プラズマ閉じ込め装置は大型化する傾向にあり、100 keV以上の高エネルギーの中性粒子ビームが必要不可欠になってきました。このため、核融合科学研究所では、100 keV以上のエネルギーの中性粒子ビームを生成するために、水素負イオン源を世界に先駆けて開発してきました。

 

例えば、当研究所では、磁場配位の最適化による負イオン源プラズマの閉じ込め改善及びビーム透過率の高い加速器の開発により、最大ビーム加速電圧 190 kV、最大ビーム入射電力 6.9 MWという、1台の負イオン型NBIとしては世界最高性能を達成しました(図1)。

しかしながら、核融合研究を発展させて核融合発電を実現するために、NBIにはより高い性能と安定性が求められています。今までのように負イオン源についての試行錯誤や経験則による開発研究では、大幅な性能の向上を得ることが難しくなっています。飛躍的な性能向上のためには、実験研究やシミュレーション研究の結果から、負イオン源内で起こっている物理現象を理解する必要があります。そこで、当研究所のNBIグループは、ビーム引出中の水素負イオンの挙動に着目して研究を開始しました。

水素負イオンは、プラズマと接する加速電極の表面付近で生成されます。これは、電極表面を、低仕事関数状態にしてあり、その表面に衝突した水素正イオンあるいは水素原子が電極表面から電子を受け取って、負イオンに変化するからです。図2に示したように、水素負イオンの生成直後の速度方向は、ビームの進行方向と逆方向であり、どのように水素負イオンがその速度の方向を変えてビームとして引き出されるのか、その物理機構は明らかにされていません。さらに、電極表面のどの部分で生成した水素負イオンがビームとして引き出されるのかも明らかにされていません。これまでに、水素負イオン源プラズマについて多くのシミュレーションが精力的に行われてきましたが、多くの物理過程が関係するため、実験結果を説明するような結果は未だ得られていません。

【研究成果】

核融合科学研究所の大型水素負イオン源には、水素負イオンの密度や電子の密度などを計測する各種装置が整備されており、プラズマを空間的・時間的に詳細に計測することができます。これらの装置を活用して、今まで実験的に計測することが困難であったビーム引き出し中の水素負イオンの挙動を明らかにすることが出来ました。

また、ビーム引き出しに伴い水素負イオンの流れの方向がどのように変化するかを調べるために、4つの針状電極を持つ複合型探針とレーザー光を利用した、水素負イオンの流れを計測する手法を新たに開発しました。

この実験では、複合型探針の4つの針状電極毎にレーザー光を短時間照射し、それらの針状電極に流れる電流の変化を測定し、水素負イオンの速度を求めました。これらの操作を空間の多数の点で行うことで、ビーム引き出しに伴い、水素負イオンの流れがどのように変化するのかを調べました。その結果、ビームを引き出すと、加速電極で生成された直後の水素負イオンは電極から遠ざかって行き、その後Uターンしてビーム引き出し孔の方に流れていくことを初めて実験的に明らかにしました(図3)。水素負イオンの流れの詳細な構造を明らかにしたことは、実用的にも学術的にも価値が高い成果です。

本研究成果は、10月17日(月)から10月22日(土)まで京都で開催された「第26回国際原子力機関(IAEA)核融合エネルギー会議」において発表されました。

このように「水素負イオン源」の大幅な性能向上に成功するとともに、複数の計測装置を用いて、負イオン源のプラズマを多角的に調べることで、今まで知られていなかった負イオン源プラズマの詳細な物理現象を実験的に明らかにしました。これらの成果が総合的に評価され、9月にオックスフォードで開催された「負イオンに関する国際会議(NIBS)」において、NIBS awardを受賞しました。

【研究成果の意義】

本研究で開発した計測手法を応用することで、加速電極のより近くの負イオンの流れを計測できるため、ビームとして引き出される負イオンの起源を明らかにできる可能性があります。これにより、負イオン源の構造を最適化するための指針を与えることができます。

負イオン源は、核融合分野のみならず、医療用ビーム源にも活用されています。また、宇宙推進機の推力を得る手法として、正イオンと負イオンを交互に、または同時に放出する方法が研究されています。本研究で得られた実験結果及び新たに開発した計測手法は、これらの研究開発に貢献するものと期待されます。

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