感染症から体を守るために、肺の免疫細胞は吸入した真菌性病原体の細胞死プログラムを利用していることが明らかになった。これによって、ほとんどの人がカビ胞子を吸い込んでも害を受けない理由に説明がつくとともに、実際に感染した人に新しい治療方法を提供できる可能性がある。人はどこにいても毎日1,000から1010個のカビ胞子を吸い込んでいる。有害な真菌感染症を防ぐために、好中球などの免疫細胞は細胞体を「貪食する(むさぼり食う)」ことで、吸入した胞子を肺から取り除く。しかし、結核、自己免疫疾患、AIDS、化学療法などで免疫系がすでに弱っている人は、カビへの曝露によって病気になりやすい。こうした人に対する効果的な治療法を開発するためには、抗真菌免疫をもっと明確に把握する必要がある。Neta Shlezingerらはマウスを使って、肺の免疫細胞が、アスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)という世界中で真菌性肺炎を起こしている最も一般的な病原体とどのように闘っているかを研究した。彼らは、肺の好中球が胞子を飲み込んだ後に、真菌自体の「プログラム細胞死」の経路を誘発し、真菌の発芽と宿主侵入を防ぐことを見いだした。重要なのは、著者らがA. fumigatusのAfBIR1というタンパク質も発見したことである。この真菌のタンパク質は、細胞死を抑制して腫瘍増殖を長引かせ、結果として細胞死を阻止することが知られているヒトのサバイビンタンパク質に相当するものであり、AfBIR1を過剰発現している胞子に曝露したマウスは、すぐに致死的な真菌感染症にかかった。AfBIR1をコードするBIR1を薬理学的に阻害することによって、真菌の細胞死および感染した気道のクリアランスが増加した。このことは、AfBIR1の阻止が、侵入性アスペルギルス症に対する実行可能な治療方法になりうることを示唆している。
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