News Release

インフルエンザウイルスを高感度かつ選択的に検出する導電性プラスチックの開発

― ウイルス感染をその場で診断するウエアラブルデバイスへの応用に期待 ―

Peer-Reviewed Publication

Tokyo Medical and Dental University

Human Influenza Virus Recognition by Sugar-modified Conducting Polymers

image: A new conducting polymer was developed for detecting specific interaction of trisaccharide with hemagglutinin in the envelope of the human influenza A virus (H1N1) by electrical manners. view more 

Credit: Department of Bioelectronics,Institute of Biomaterials and Bioengineering,TMDU

 東京医科歯科大学生体材料工学研究所バイオエレクトロニクス分野の合田達郎助教・宮原裕二教授と、医歯学総合研究科ウイルス制御学の山岡昇司教授らの研究グループは、ヒトインフルエンザウイルスを選択的に捕捉する新たな導電性高分子を開発しました。この研究は、文部科学省新学術領域研究「ナノメディシン分子科学」(#26107705)、双葉電子記念財団「自然科学研究助成」、科学技術振興機構(JST)革新的研究開発推進(ImPACT)宮田プログラム「進化を超える極微量物質の超迅速多項目センシングシステム」などの支援のもと遂行され、その研究成果は、国際科学雑誌 ACS Applied Materials Interfacesに、2017年4月5日にオンライン版で発表されました。

【研究の背景】  

インフルエンザは、我々にとって最も身近に存在する感染症のひとつであり、世界中で、毎年300万-500万人が感染し、25万-50万人が死亡するといわれています。ウイルスの感染拡大を防止するには、早期の診断による薬の処方が最も有効的です。また、近年、強毒性の鳥インフルエンザなど、新型インフルエンザの流行が危惧されており、迅速かつ高精度にインフルエンザウイルスの型を判別する必要があります。しかし、従来の免疫法や遺伝子解析法などによるウイルスの検出は感度・時間・コストの問題があります。さらに、病院へ行かなければ診断ができないというインフラの問題があり、インフルエンザの感染拡大を防止するには不十分です。そこで、本研究では、高感度・高精度、かつ、その場(ポイント・オブ・ケア)で診断が可能な小型・可搬型の電気的インフルエンザウイルス検出法を実現するための機能性材料の開発に取り組みました。

【研究成果の概要】

 インフルエンザウイルスの型を識別するために、研究グループは、ウイルス表面のタンパク質(ヘマグルチニン)がヒトなどの動物へ感染する際に細胞膜表面に存在する糖鎖の種類の違いを認識するという分子機構に着目しました。また、その場診断が可能な電気的インフルエンザウイルス検出を実現するために、電気伝導性が高く、化学的に安定で、希少元素・有害元素を含まない、インク液として材料に塗布・修飾できる、といった多くの利点をもつ導電性高分子(PEDOT)と呼ばれる機能性プラスチックに着目しました。そして、A型インフルエンザウイルス(H1N1)が認識する糖鎖配列を組み込んだ導電性高分子を新たに合成し、様々なセンサー表面に修飾したところ、目的の型のウイルスのみが選択的に結合することを確認しました。さらに、電気的計測法において、ウイルスの検出感度は従来の免疫法と比べて100倍高いことが判明しました。

【研究成果の意義】

 糖鎖配列を組み込んだ導電性高分子はこれまでにない新しい材料です。ウイルスの感染機構に倣った分子認識システムは汎用性が高く、糖鎖の種類と配列を変えることで異なるウイルスの検出にも対応できます。開発された導電性プラスチックは、その場での診断を可能にする小型化・微細化・低コスト化・省エネ化に適した電気的なセンサーの開発に繋がります。特にマスクと一体になったウエアラブルセンサーが開発できれば、インフルエンザ早期診断の実現によって薬の処方が有効となり、感染の拡大防止に繋がります。また、ポータブルな検出器を用いれば、感染した患者が人混みから離れた自宅等で検査することによって、二次感染を未然に防げるというメリットも考えられます。ウエアラブルセンサーは、既存の検査方法と異なり、インフラ施設が不要であることから、過疎地域、或いはアジア・アフリカ等の新興国等におけるウイルス検査という新しいニーズを創出することが期待できます。将来的には、GPS情報と融合させたビックデータとして、疫学的な知見を得ることも可能になると予想されます。

【用語の説明】

ヘマグルチニン:ヘマグルチニンとは、インフルエンザウイルスをはじめとする多くの細菌・ウイルスの表面上に存在する糖タンパク質であり、ウイルスはこのヘマグルチニンの働きによって、動物細胞表面にある糖鎖を特異的に認識して結合し、細胞内に取り込まれることにより細胞に感染します。ヘマグルチニンにはH1からH16までのサブタイプが存在します。H1N1など、インフルエンザウイルスの亜型名のHはヘマグルチニンの種類を表します(Nはノイラミダーゼの種類を表します)。ヒトインフルエンザウイルスに存在するのはH1、H2、H3の三種類です。鳥インフルエンザウイルス(H5N1)は病原性が高く、変異によってごくまれにヒトにも感染するため、近い将来、それが爆発的感染(パンデミック)を引き起こす可能性が危惧されています。

導電性高分子(PEDOT):導電性高分子とは、電気伝導性を有する高分子化合物の総称であり、1970年代に白川英樹博士(2000年ノーベル化学賞受賞)らによるポリアセチレンフィルムの合成を皮切りに、その研究が飛躍的に発展しました。PEDOTとは、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)と呼ばれる高分子化合物で、ポリチオフェン類に属する代表的な導電性プラスチックです。高分子材料に共通する加工の容易さと材料特性に加え、動物の体内環境でも無害であり、かつ、比較的安定に存在することから、近年、PEDOTの医工学分野への応用が注目され、バイオセンサーをはじめとする様々なアプリケーションの報告がなされています。

###


Disclaimer: AAAS and EurekAlert! are not responsible for the accuracy of news releases posted to EurekAlert! by contributing institutions or for the use of any information through the EurekAlert system.