News Release

細胞が自発的に活性酸素の発生を減らすメカニズムを解明

酸化ストレス障害の軽減と早期発見に向けて

Peer-Reviewed Publication

Tokyo University of Agriculture and Technology

Influx and efflux of protons to mitochondria and generation of reactive oxygen species (ROS)

image: When the balance of proton influx and efflux is lost and theproton inside the mitochondria is insufficient, the amount of ROS generated increases. Proton deficiency inside the mitochondria induces proton influx from the emergency route. Once the proton shortage inside the mitochondria is resolved, the emergency route is closed. view more 

Credit: Yoshihiro Ohta/ TUAT

国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院生命機能科学部門の太田善浩准教授、同大学大学院生のアクリマ・ヤンナトゥル氏らのグループは、細胞から取り出したミトコンドリア1個のライブ蛍光顕微鏡解析技術を用いて、細胞の中のミトコンドリアが自発的に活性酸素種の発生を減らす仕組みを解明しました。この成果により、酸化ストレスが原因となる病状の軽減や早期発見への貢献が期待されます。

本研究成果は、Frontiers in Cell and Developmental Biology(6月30日付)に掲載されました。

URL:https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fcell.2021.692776/full

現状

 ミトコンドリアは、細胞の活動に必要なエネルギーを作ると同時に、過剰に存在すると有害な活性酸素種を発生させる細胞内器官です。多くの疾病で、細胞内で活性酸素種が過剰に発生した状態(酸化ストレス)が観察されており、ミトコンドリアにおける活性酸素種発生の適切な抑制は極めて大切だと考えられ、研究されてきました。現在までに、発生した活性酸素種を除去する仕組みは見つかっていますが、発生を抑制する仕組みはよくわかっていません。それは、ミトコンドリアにおけるエネルギーの合成と活性酸素種の発生では共通の仕組みを使っているので、両者の区別が難しかったからです。また、ミトコンドリアは活性酸素種に曝されると、さらに活性酸素種の発生量が増加する悪循環に陥ることが知られています。初期の段階でこの悪循環を断ち切れば、酸化ストレスによる細胞のダメージを軽減できると考えられますが、どのように悪循環に陥るのか不明でした。

研究体制

 本研究は、国立大学法人東京農工大学大学院工学府生命工学専攻アクリマ・ヤンナトゥル氏(本学博士後期課程3年(文部科学省国費留学生)、チッタゴン大学助教)、および東京農工大学大学院工学研究院生命機能科学部門太田善浩准教授らのグループにより行われました。なお、本研究の一部は国立研究開発法人科学技術振興機構が推進する産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA) JPMJOP1833(光融合科学から創生する「命をつなぐ早期診断・予防技術」研究イニシアティブ)、及びルカ・サイエンス株式会社の支援を受けて行われたものです。

研究成果  

本研究の成果は2つあります。1つは、活性酸素種の過剰な発生をミトコンドリアが自発的に回避する新しい仕組みを発見したことです。ミトコンドリアは、水素イオンを内側から外側へ汲み出し、その後に戻すことで細胞内のエネルギー通貨であるアデノシン三リン酸(ATP)を合成しています。通常は、汲み出しと戻しがバランスよく行われるため、内部の水素イオンが不足することはありません。本研究では、このバランスが崩れて内部の水素イオンが不足すると活性酸素種が発生しやすくなること、及び、そのときにミトコンドリアはエネルギーの合成を行わないルートで水素イオンを内部に取り込み水素イオン不足を回避し、活性酸素種の持続的な発生を抑制していることを見出しました。もう1つの成果は、水素イオンの移動のバランスが崩れる原因を見つけたことです。少量の活性酸素種により、ミトコンドリア内に水素イオンを戻すタンパク質であるATP合成酵素の機能が低下することがバランス低下の原因となることを発見しました。  

今後の展開  

酸化ストレスによる細胞のダメージを初期の段階で検出し、病気につながる細胞異常を抑制することが期待されています。本研究では、ミトコンドリアでの活性酸素種の発生量の増加は、少量の活性酸素種によるATP合成酵素の活性阻害がきっかけとなることを示しました。今後はATP合成酵素の酸化を阻害し、ひいては細胞の酸化ストレス障害を抑制する物質の創薬につながることが期待されます。また、本研究では、酸化ストレス障害の初期の段階で、ミトコンドリアはエネルギー合成を行わないルートで急激に水素イオンを取り込むことを見出しました。この水素イオンの急激な取り込みを指標として、酸化ストレスの早期検出ができるように技術開発を進めていきます。さらに、水素イオン濃度を感知するタンパク質や水素イオンを急激に取り込むタンパク質の実体をつきとめ、今回発見した仕組みを体内で検証します。

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用語解説

注1)ミトコンドリア 細胞内器官の一種で、細胞内のエネルギー合成と細胞死で中心的な役割を果たす。

注2)活性酸素種 酸素分子として反応してできる反応性の高い分子種。低濃度では細胞内シグナル伝達物質として働くが、高濃度では周囲の分子を酸化して、機能を低下させる。

◆研究に関する問い合わせ◆

東京農工大学大学院工学研究院
生命機能科学部門 准教授  
太田 善浩(おおた よしひろ)  
E-mail:ohta(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp


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