News Release

どの種類の筋肉細胞になるかを酵素「LSD1」が調節

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

Myoblast regulation by LSD1

image: The LSD1 enzyme regulates the differentiation and metabolic activity of skeletal muscle. view more 

Credit: Prof. Mitsuyoshi Nakao

私たちの体は食物を代謝することで、生きるためのエネルギーを作って、すべての生命活動を行っています。これと同じように、体を構成する細胞は栄養分からエネルギー分子を産生して消費しています。この代謝の仕組みは、栄養物を利用してエネルギーを産生することと、逆に、エネルギーを利用して栄養物を蓄積することが行われます。

すべての細胞は代謝に関わる遺伝子発現をうまく調節して、栄養や酸素の供給、運動、温度などの環境変化に対して適応しています。正常の細胞は、酸素がある時にミトコンドリア代謝、他方、酸素が乏しい時に主に糖を用いた解糖を使ってエネルギーを産生します。このようにエネルギー代謝の仕方が転換する際には、細胞の代謝遺伝子群の働きが大きく変化しますが、そのメカニズムは未だにわかっていない点が多くあります。

一般的に、遺伝子の働きは、転写因子とゲノムの修飾(化学変化)の状態で決まります。とりわけ、修飾されたゲノムを「エピゲノム」とよんで、その修飾には、DNAのメチル化や、DNAが巻き付いているヒストンというタンパク質の修飾があげられます。その中でも、ヒストンの「リジン」と呼ばれる部位のメチル化は、エピゲノムの重要な修飾であり、メチル基を付けるメチル化酵素とそれを除く脱メチル化酵素によってなされます。

熊本大学の研究グループは、2012年に、脱メチル化酵素「LSD1」が脂肪細胞でエネルギー代謝を調節する仕組みを初めて解明しました(Nature Communications)。LSD1がミトコンドリア代謝遺伝子の活性を抑制して、その結果、脂肪の蓄積が増加して肥満を誘導するメカニズムについて報告しました。また、2015年には、がん細胞においてLSD1がミトコンドリア代謝を抑制して、さらに、酸素がある状態でも解糖を促進することを明らかにしました(Cancer Research)。このように、LSD1は、さまざまな細胞の状態に応じて、代謝機構を調節するエピゲノムの修飾酵素として位置づけられます。

今回、熊本大学の研究者らは、マウス筋芽細胞(C2C12)を用いて、網羅的な遺伝子発現およびエピゲノムの解析を行い、LSD1がミトコンドリア代謝に関わる遺伝子群と、これらと協働する遅筋型の遺伝子群の発現をともに抑制することを見出しました。LSD1は代謝関連の遺伝子座、遅筋型の遺伝子座に集積し、遺伝子の働きを抑制していました。興味深いことに、主要な代謝調節ホルモンである「グルココルチコイド」の作用により、LSD1の分解が促進され、LSD1タンパク質が減少しました。つまり、筋芽細胞はLSD1によって速筋に分化し、LSD1がグルココルチコイドで抑えられると遅筋になるのです。ホルモンとLSD1酵素の関係が初めて明らかになりました。

また、グルココルチコイドとLSD1阻害薬剤を併用することによって、代謝関連および遅筋型の遺伝子の働きはさらに増強することが分かりました。さらに、マウスでも、骨格筋組織のLSD1はグルココルチコイドの働きによって制御されることを確認しました。このように、環境に応じて働くホルモンの作用下で、LSD1は骨格筋の分化型と代謝を協調的に制御することが明らかになり、骨格筋の代謝プログラムにおいて重要な役割を果たすと考えられます。

近年、肥満や糖尿病などに限らず、認知症、筋肉疾患、加齢性疾患などにおいて、エネルギー代謝の機能低下が共通の病態になることが明らかになっています。また、高齢化社会において、骨格筋量の低下(サルコペニア)、肥満・糖尿病での骨格筋のミトコンドリア代謝(遅筋の働き)の低下が注目されています。今回の研究成果は、現代社会で学術的・社会的な課題とされる、加齢による骨格筋の機能不全の分子メカニズムと新たな制御・予防法の開発に役立つと期待できます。

本研究成果は、科学ジャーナル「Nucleic Acids Research」に平成30年3月29日に掲載されました。

[Source]

Anan, K., Hino, S., Shimizu, N., Sakamoto, A., Nagaoka, K., Takase, R., … Nakao, M. (2018). LSD1 mediates metabolic reprogramming by glucocorticoids during myogenic differentiation. Nucleic Acids Research. doi:10.1093/nar/gky234

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