News Release

新薬が急性心筋梗塞後の心破裂を防ぐ

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

Heart Tissue Three Days after Myocardial Infarction

image: Microscopic images of murine myocardial tissue three days after myocardial infarction. MMP-9 activation was clearly decreased in the LCZ696 treatment group while the number of inflammatory cells (macrophages) remained unchanged in any group. view more 

Credit: Dr. Masanobu Ishii and Associate Professor Koichi Kaikita

現在は多くの抗心不全薬が出ています。中でも、新薬LCZ696はアメリカで慢性心不全の治療薬の第一選択薬としてガイドラインで推奨されています。この新薬LCZ696は従来の薬剤よりも心臓死や心不全による入院を少なくすることがわかっています。今回、熊本大学の研究によって、LCZ696が慢性心不全の原因となる急性心筋梗塞後の心破裂と心不全を防ぐ作用があることが明らかになりました。

心疾患は世界死因ランキングの第一位であり、その内訳として心不全や急性心筋梗塞が多数を占めています。従来は、心不全や急性心筋梗塞に対して、血圧を上げるレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系を抑制する薬剤である、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)やアンジオテンシン?受容体拮抗薬(ARB)が治療の第一選択として、他の薬剤と併用されていました。

しかし、その後新薬LCZ696が登場します。LCZ696は、従来の降圧薬であるバルサルタンと、ナトリウム利尿ペプチドという主に心臓から分泌されるホルモンを分解する「ネプリライシン」を阻害することで臓器保護的な作用をもたらす、ネプリライシン阻害薬サクビトリルを組み合わせた新規の薬剤です。海外で心臓の収縮力が低下した慢性心不全患者を対象に行われた大規模臨床試験で、LCZ696が従来のACE阻害薬よりも心臓死および心不全による再入院の数を減らしたことが2014年に報告されました。この結果を受けて、欧米ではLCZ696が慢性心不全の治療の第一選択として広く普及しています。

LCZ696は血圧を上げるレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の働きを抑え、心臓の保護作用のあるナトリウム利尿ペプチド系の働きを高める作用を持っており、慢性心不全に対する治療薬として確立しています。一方で、慢性心不全の原因となる急性心筋梗塞の急性期の治療に有用かどうかは未だ明らかとなっていません。心筋梗塞では、心筋の壊死を起こした部分と、壊死を起こしていない部分との境目で心筋の壁が裂けて出血する心破裂が起こることがあります。心筋梗塞で死亡する原因の10%が心破裂によるものとされています。そこで研究者らはマウス(野生型マウス)に対して人工的に心筋梗塞を作成し、LCZ696の効果を検討しました。

心筋梗塞モデルマウスの作成後、1日後より何も投与しない群(コントロール群)、ACE阻害薬投与群、LCZ696投与群に振り分けて経過をみました。すると、驚くべきことに心筋梗塞後1週間以内に発生する心破裂による死亡率は、コントロール群やACE阻害薬投与群と比べて、明らかにLCZ696投与群で低いことがわかりました。心破裂を抑制したメカニズムを調べるために、心筋梗塞部での遺伝子発現を解析すると、LCZ696投与群で炎症に関わるサイトカイン(IL-1β、IL-6)や組織の分解に関わるMMP-9の遺伝子の働きが明らかに低下していることがわかりました。MMP-9の働きの上昇は、心破裂の原因に関連していることがわかっています。

また、心臓の病理組織を顕微鏡で観察したところ、炎症細胞の数はすべての群において変わりはありませんでしたが、MMP-9の働きはLCZ696投与群で明らかに低下していました。さらに、マウスのマクロファージを用いた培養細胞の実験では、バルサルタン単独群、サクビトリル単独群よりもLCZ696群で、炎症に関わるサイトカインやMMP-9の働きが抑えられることが確認されました。

研究を主導した熊本大学の石井正将医師と海北幸一准教授は次のようにコメントしています。

「新薬LCZ696は慢性心不全患者の予後を改善する新たな治療薬として期待されている薬剤です。慢性心不全の原因として虚血性心疾患、とりわけ心筋梗塞が多いことが報告されておりますが、今回の研究により、その心筋梗塞に対してもLCZ696が心臓の保護効果を持っており、心破裂を抑える働きにより予後を改善することが明らかになりました。将来的に、慢性心不全だけでなく、急性心筋梗塞後の治療にもLCZ696が応用されることが期待されます。」

本研究成果はヨーロッパ心臓病学会2017年年次集会のHotlineセッションで発表され、科学雑誌「JACC; Basic to Translational Science」に2017年8月28日掲載されました。

[Resource]

Ishii, M. et al., Cardioprotective Effects of LCZ696 (sacubitril/valsartan) After Experimental Acute Myocardial Infarction, JACC: Basic to Translational Science, JACC: Basic to Translational Science, 2017.

DOI: 10.1016/j.jacbts.2017.08.001

###


Disclaimer: AAAS and EurekAlert! are not responsible for the accuracy of news releases posted to EurekAlert! by contributing institutions or for the use of any information through the EurekAlert system.