News Release

ラン人工栽培キットを開発

家庭で簡単にランを種から育てられるキットが誕生

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

Gastrodia Orchid Growth in a Cultivation Kit

image: This is orchid growth over time inside a cultivation kit (top row). Gastrodia pubilabiata successfully bloomed three times in one year from the same individual plant in the cultivation kit (bottom row). view more 

Credit: Professor Shinichiro Sawa

世界中で園芸愛好家に愛されるランは、育成がとても難しいことでもよく知られています。日本の研究者らが、種子発芽から開花・結実まで可能にする「ラン人工栽培キット」を開発し、ある自生ランの完全人工栽培に成功しました。このキットは数ドル程度の材料でできるため、一般家庭でのラン栽培の幅を広げることができます。多くが絶滅の危機にあるラン科植物種の、遺伝的多様性を保全するためにも役立つことが期待されます。

[背景]

植物の中には菌根菌という菌類を根などに共生させて、菌根菌に糖分を供給してもらうことで発芽や成長を行う「菌従属栄養植物」と呼ばれる一群が存在しています。ラン科植物もその一つです。ラン科植物は独特な姿形や生殖様式をもち、非常に多様化した生態的特徴を持っていますが、絶滅に瀕している種も少なくありません。

このラン科植物のように、共生菌が必要な植物では、共生菌が存在しにくい人工の環境下で種子の発芽や栽培を行うのが難しいのが現状です。ランの育成は一般的には、苗を購入し開花を目指して育成する事になりますが、年単位の時間を要することもあります。労力もかかるうえ、温室などの設備が必要な場合もあり、高価な富裕層向けの園芸植物、というイメージを持たれることの多い植物です。また、ランの種子は入手も困難ですが、種子を持っていたとしても、一般家庭でランの種子を発芽させることは極めて難しいとされています。このため、一般の方でランを発芽から開花まで育てた経験を持つ方はほとんどいないのではないでしょうか。種の保全のためにも人工栽培の高効率化が期待されています。

[開発]

ランは世界で最も種数が多い園芸植物ですが、日本の熊本県には3種のヤツシロランが自生しています。熊本大学の科学者らははじめ、実験室でのラン科植物の栽培に必要な菌根菌を同定するために、独自のラン科植物栽培キットを開発しました。その際、この栽培キットがこの地域に生息する3つのヤツシロランの栽培に非常に適していることがわかりました。「ラン人工栽培キット」は、それぞれの自生地から採取した倒木片および周辺の腐食球果・落枝葉・腐葉土を蓋付きのプラスチックケース中に入れたシンプルなものです。

[成果]

この「ラン人工栽培キット」を用いてヤツシロランを種子から栽培したところ、発芽から開花、結実まで完全に人工的に栽培できることを確認しました。「ラン人工栽培キット」による育成効率は極めて高く、野外ではほとんど発芽しない種子も、ほぼ100%の確率で発芽した例もあります。また、クロヤツシロランの場合、年3回の開花を行うことにも成功しました。

今回開発した「ラン人工栽培キット」は、密閉型のプラスチック容器を用いることで、より高い湿度を保つことが可能となります。また、自生地から採取した倒木片などに付着していた菌根菌がヤツシロランの生育に好影響を与えたことでこのような高い効率を得ることができたと考えられます。実際、自生地から採取した倒木片から同定された菌根菌と同じ菌が、成育中のラン科植物中からも検出されました。倒木片上で生育している共生菌が、確かに、ラン科植物の体内で共生していることが明らかとなったのです。このように、「ラン人工栽培キット」では、ランの生育に必要不可欠な菌根菌と湿度を同時に確保することで、ランの効率的な発芽と生長を促進するということがわかりました。

研究を主導した熊本大学の澤進一郎教授は次のようにコメントしています。

「今回開発した「ラン人工栽培キット」は、非常に簡便なシステムのため、どこでも、だれでも、人工栽培が可能になると考えられます。このシステムをさらにカスタマイズすることで、様々な菌従属栄養植物の人工栽培が簡便化、高効率化し、家庭用栽培キットの商品化だけでなく、絶滅危惧種の保全・増殖や薬用植物の人口栽培など幅広い分野での応用が期待されます。

本研究成果は平成29年3月9日〜12日開催の日本植物分類学会第16回大会(京都)で発表され、International J. of Biologyに2017年9月16日掲載されました。

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[Resource]

Shimaoka, C.; Fukunaga, H.; Inagaki, S.; Sawa, S., Artificial Cultivation System for Gastrodia spp. and Identification of Associated Mycorrhizal fungi, International Journal of Biology, Canadian Center of Science and Education, 2017.


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