News Release

インターフェロン-βを産生するiPS細胞由来のミエロイド系免疫細胞による肝がん治療

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

マウスモデルにおけるiPS-ML/IFN-βを用いた転移性肝がん治療

image: (A)転移性肝がんに対するIFN-βを分泌するiPS-MLの治療効果を評価するためのバイオイメージング分析。 (B)Aの画像データの定量化データ。 (C)肝内腫瘍組織(GFP、緑色)へのiPS-ML(PKH26、赤色)の移動を示す組織学的データ。 view more 

Credit: Assoc. Prof. Satoru Senju

肝臓がん中で最も頻度の多い肝細胞がんの原因はいまだに全てが解明されてはいません。B型肝炎やC型肝炎、肝硬変、肥満、糖尿病、肝臓病や、肝臓への鉄分の蓄積、また、食品に発生するカビ毒であるアフラトキシンといった毒素が、肝がんや肝細胞がんのリスクになっていると考えられています。肝細胞がんの治療には、一般的に放射線療法、化学療法、ラジオ波熱凝固療法、切除、肝臓移植などがあります。残念なことに死亡率は依然として非常に高く、アメリカがん協会によると、転移していない限局的肝がんの5年生存率は31%に昇ります。

そこで、肝細胞がんを含む原発性肝臓がん及び転移性肝臓がんの治療法の改善を目指して、IFN-βタンパク質を作り出すiPS細胞由来のミエロイド系免疫細胞の研究が開始されました。IFN-βは、免疫系にはたらきかける抗ウイルス効果と、JAK-STAT経路やがん抑制因子の機能発現といった2つの抗腫瘍活性を有するサイトカインです。IFN-βは数種類のがん治療に使用されていますが、不活性化が急速に起こったり、組織への浸透が不十分であったり、毒性が出たりといった副作用の課題があるため、がん全般に至るまでには広く用いられていません。この点を克服するため、熊本大学大学院生命科学研究部免疫識別学の千住覚准教授を中心とした研究グループは、以前の研究プロジェクトで開発したiPS細胞に由来する増殖性ミエロイド(iPS-ML)細胞を使用した研究を行いました。iPS-MLは腫瘍関連マクロファージと似た挙動をすることが発見された細胞です。千住准教授らはこの細胞を、IFN-βをがん細胞へと輸送するドラッグデリバリーシステムとして改良し、マウスモデルを用いて生体内における肝がんの治療効果を検討しました。

研究グループは、IFN-β治療に感受性のある2系統のがん細胞株を用いて実験しました。1つは脾臓への注射後、肝臓に転移しやすいがん細胞株で、もう1つは肝臓に直接注射した後に生着可能なモデルを作り出すがん細胞株です。これらのがん細胞株を注射後、陽性と診断されたマウス(約80%)を試験群と対照群に分け、試験群のマウスの腹部にiPS-ML/IFN-β細胞を週に2〜3回、3週間注射しました。

その結果、腫瘍を有する肝臓では、IFN-βの濃度が腫瘍のない肝臓よりも高いことが判明しました。これは、iPS-ML/IFN-β細胞が腹腔と肝実質を隔てる被膜(漿膜)を通過し、肝臓内のがん病巣に向かって移動するためと考えられます。一方で腫瘍のない肝臓にはiPS-ML/IFN-β細胞は浸透せず、組織表面にとどまりました。また、iPS-ML/IFN-β注射後24時間から72時間までのIFN-β濃度は、腫瘍細胞の増殖を阻害、または腫瘍細胞死を引き起こすのに充分な濃度でした。

マウス細胞はヒトIFN-βによる悪影響を受けないため、本実験モデルでは副作用の評価はできていません。本研究グループでは副作用の点を検討するため、ヒトiPS-ML/IFNに対応するマウスを用いた新しい実験モデルを既に開発しており、治療効果の実験を開始しています。

研究を先導した千住准教授は次のようにコメントしています。「iPS細胞由来のIFN-β発現ミエロイド系免疫細胞に関する我々の研究は、多くのがん患者にとって有益なものと考えています。現時点ではまだ多くの課題が残っていますが、人体でも安全に使用できると判断された場合、本技術はがんの進行を遅らせ、生存率を高める可能性があります。」

本研究成果は平成29年2月8日に日本肝胆膵外科学会の英文誌「Journal of Hepato-Biliary-Pancreatic Sciences」に掲載されました。

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[Citation]

M. Sakisaka, M. Haruta, Y. Komohara, S. Umemoto, K. Matsumura, T. Ikeda, M. Takeya, Y. Inomata, Y. Nishimura, and S. Senju, "Therapy of primary and metastatic liver cancer by human iPS cell-derived myeloid cells producing interferon-β," Journal of Hepato-Biliary-Pancreatic Sciences, vol. 24, pp. 109–119, Feb. 2017. DOI: 10.1002/jhbp.422


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