News Release

海の生き物たちの回復が明らかに

2011年津波後の5年間に渡る潜水調査結果

Peer-Reviewed Publication

Kyoto University

Returning Aqua Life

image: Returning black rockfish (Sebastes cheni) were observed by the authors in Nishi-Moune Bay, July 2014. view more 

Credit: (Kyoto University/Reiji Masuda)

概要:益田玲爾 京都大学舞鶴水産実験所准教授らは、気仙沼市舞根湾周辺の4地点で2011年5月から2ヶ月に1度の頻度で潜水調査を行い、魚類および大型無脊椎動物の記録をとっています。津波から5年間の記録を解析したところ、海の生物がどのように回復するか、下記6点が明らかとなりました。

    1.津波から1年間は寿命の短いハゼ科の魚が爆発的に増えました。津波により大型の捕食者が一掃されたためと考えられます。
    2.2年目までに魚の種類数は一定数に達し、種数の上では回復したと思われました。
    3.アイナメなど比較的長寿の魚は津波から3年目以降も体長が大きくなります。これにより魚類全体の推定重量は5年目が最大となりました。
    4.津波から2〜3年目にかけて、これまで宮城県で記録のなかった熱帯性の魚種がいくつか見つかりました。北方系の大型捕食者が不在であったため、海流に運ばれてきた南方種が生き残ったと考えられます。北方系の大型種が復活した4年目以降、南方種は見られなくなりました。
    5.津波の影響が最も大きかった湾奥の地点での魚類の回復は他の地点と比べて遅いことを確認しました。津波による多量の土砂が堆積物となり、海底の地質が安定せず海藻が生えにくいためと考えられます。
    6.津波から1〜2年目にはクラゲの大量発生がありましたが、以後はありません。マナマコは3年目以降に増え、エゾアワビは5年目に初めて漁獲対象となるサイズの個体が多く記録されました。

この結果はそれぞれの生活史の長さを反映しています。つまり、成熟に要する期間がハゼ科の魚やミズクラゲでは1年以内であるのに対し、マナマコやアイナメは2〜3年、エゾアワビは3〜4年と長いためです。このことから、ナマコやアワビの資源を管理するには、それぞれ3年あるいは5年の休漁をはさむ輪作漁法が有効とも言えます。

背景:東日本大震災の津波は最大で40.4mの高さを記録しました。調査地の気仙沼周辺では、津波による土砂の堆積に加え石油の流出に伴う沿岸火災もあり、浅海に生息する生物には一時的に極めて生息しにくい環境となりました。その様な中、当地で「森は海の恋人」運動を続ける畠山重篤氏の「海は必ず復活する。その様子を記録することは科学的に価値が高いのでは?」とのアドバイスの下で調査は開始されました。津波の2ヶ月後から「気仙沼舞根湾調査」の一環として本格的な沿岸生態系調査にとりかかり、以後2ヶ月に1回の定例調査を継続しています。津波という大規模な撹乱の後に生物がどのように回復してきたかを確認することが目的です。

研究手法・成果:気仙沼市舞根湾の内外4地点を定点としました。津波の影響が最も大きかったと考えられる湾奥(St. 1)、湾内の岩場(St. 2)、急深な湾口(St. 3)、および湾外の岩場から砂地にかけて(St. 4)です。それぞれについて幅2m×長さ50mの調査測線を10本設定し、出現する魚や大型無脊椎動物の種類、体長および個体数を記録しています。なお、魚の重量は目視体長から換算式を用いて推定しました。

 調査期間を通して、魚の種類・バイオマス・個体数とも水温に応じた変化を示し、夏に多く冬に少ない傾向がありました。年度ごとに比較すると、魚の個体数および種類数は2年程度で安定していますが、総重量は徐々に増えて5年後に最大となりました。

 魚種ごとにみると、最初の1年はハゼ科の魚であるキヌバリが爆発的に増えています。比較的長寿のシロメバルやオキタナゴは3年目以降に増えています。さらに、魚の体長も年を経て少しずつ大きくなりました。  

無脊椎動物の増え方は魚類に比べ劇的でした。ミズクラゲやアカクラゲの大量発生は津波から1年目と2年目のみ確認でき、それ以降はほぼ見られなくなった一方、マナマコは3年目頃から多く見られるようになり、さらにエゾアワビは5年目になって初めて多数が現れました。

 魚類群集全体について多変量解析で比較したところ、湾奥以外の3地点は津波から1年目と2年目で大きく変化し、以後はあまり変わっていないのに対し、湾奥では5年間にわたって変化を続けており、しかも変化の方向性が他の地点と異なるということもわかってきました。陸上からの土砂が堆積した湾奥では、海藻が定着せず魚類の生息場所が少ないため、ハゼ類やカレイ類以外の魚はまだあまりいません。

波及効果、今後の予定:来年度以降の調査では環境DNAを用いた調査法も取り入れ、海の保全の基礎となる情報を蓄積していきます。加えて、海産資源の管理に有効な漁業手法の根拠となるデータも提供できればと考えています。

研究プロジェクトについて:本研究は三井物産環境基金、科学研究費補助金 基盤研究A(代表:横山勝英)、文科省 東北マリンサイエンス拠点形成事業、JST 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)の支援を受けました。

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