ウイルスは、私たちヒトの進化の過程を通じて今日に至るまでヒトに感染し続けています。初期のウイルスのうちいくつかは私たちのゲノムに組み込まれ、これらのウイルスは現在、「ヒト内因性レトロウイルス(HERV)」として知られています。こうしたウイルスは何百万年もの間に、遺伝子コードの中で突然変異や欠失のため、不活性になっています。今日、最も研究されているHERVファミリーの1つに、ヒトとチンパンジーが進化の上で分かれてきた時代から活動してきた「HERV-K」ファミリーがあり、このウイルスファミリーの中には過去数十万年の間にヒトに活発に感染するものもあると考えられています。
HIVに感染した際、T細胞がHERVに対する免疫応答を引き起こすことが研究によって示されているため、HERVはHIV研究の標的となっています。HERVの機能発現はHIV感染によって引き起こされている可能性があるため、現在は常に変異しているHIV抗原ではなくHERV抗原を標的にすることが、HIV攻略に有効と考えられています。こうした背景から、熊本大学の研究グループでは、HIV-1群に特異的な抗原(Gag)とHERV-KのGagとの結合と、HIV-1粒子の増殖や感染力の減少との間に有意な相関関係があることを、これまでの研究で明らかにしました。今回はさらに、HERV-K GagがHIV-1にどのように影響を与えるかを明らかにするべく研究を進めました。
研究の結果、HERV-K GagがHIV-1のウイルス粒子のサイズと形態を、結合の初期段階で変化させていることがわかりました。これは、HERV-KのGag外殻(ウイルスタンパク質の外被膜)が、細胞膜でHIV-1 Gagと部分的に共局在(重複)するために生じているものです。また、成熟HIV-1粒子の数が減少し、HIV-1の放出や感染性を低下させていることもわかりました。
研究を主導した熊本大学 大学院生命科学研究部 微生物学講座の門出和精助教は以下のようにコメントしています。
「我々は、HIV-1粒子の放出効率や感染力がHERV-K Gagによって妨げられることを見出しました。ただ、この現象はそれぞれ別のシステムによるものと考えています。HERV-K Gagを発現している細胞からのHIV-1粒子放出は有意に減少しますが、どの程度感染力が低下するかについての詳細はまだわかっていません。HIV-1の粒子放出と感染性の両方を減少させるにはどうすればよいかをより明確にするため、HERV-Kの外殻に関してさらなる研究が必要です。」
本研究成果は平成29年4月26日、科学雑誌「BioMed Central's journal Retrovirology」に掲載されました。
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[Reference]
Monde, K.; Terasawa, H.; Nakano, Y.; Soheilian, F.; Nagashima, K.; Maeda, Y. & Ono, A., Molecular mechanisms by which HERV-K Gag interferes with HIV-1 Gag assembly and particle infectivity, Retrovirology, Springer Nature, 2017.
DOI: 10.1186/s12977-017-0351-8
Journal
Retrovirology