今回研究者らは、わずか2つの遺伝子の発現を増加させることにより、雄マウスの仔をつくる能力を損なうことなくY染色体の代わりをさせることに成功した。これらの成果は、技術的な偉業であるだけでなく、生殖機能と性の決定におけるY染色体の役割について新たな洞察をもたらすものである。性染色体は雄と雌で異なっており、雌は2つのX染色体を持っているのに対し、雄はXおよびY染色体を1つずつ持っている。したがって、Y染色体は雄を生物学的に決定する特徴として知られている。本報告でYasuhiro Yamauchiらは、雄の生殖能力にとってY染色体上で2つの遺伝子、SryおよびEif2s3yのみが必要であることを見いだした以前の研究を足場にした。これを受けて、著者らは他の染色体上の遺伝子の過剰発現が、Y染色体上のこれらの遺伝子の代わりをさせられるかどうかを探索することにした。Y染色体を欠損するマウスでは異常な精巣と増殖能を欠く精子が認められたが、X染色体上の遺伝子Sox9(SRYを標的)とEif2s3yホモログの発現を誘導すると精子が増殖能を持つようになった。次いで研究チームは、人工授精の技術を用いてこの精子で実験を行い、Y染色体を欠損する雄マウス13匹のうち9匹が仔をつくれることを示した。Eif2s3yに対応するX染色体上の遺伝子は、Eif2s3yの機能を1対1ではない比率で補う(実際、X染色体上の対応する遺伝子の発現レベルはより低い)ことを著者らは見出した。Y染色体上の遺伝子と、他の染色体上でコードされる遺伝子との間にみられる互換可能性は、哺乳類のゲノムにおける可塑性を示すものである。
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