News Release

世界初!タンパク質ドメインの異なる機能への「使い回し」を解明

幅広い機能のナノマシンを単純な構成要素で実現するための設計応用に期待

Peer-Reviewed Publication

Osaka University

Figure 1 Schematic Diagram

image: This is a schematic diagram of the bacterial flagellar basal body with name and size of each part. view more 

Credit: Osaka University

大阪大学大学院生命機能研究科の藤井高志特任助教(常勤)と難波啓一教授らの研究グループは、ナノサイズ[1]で高速回転する細菌べん毛[2]モーターのドライブシャフトであるべん毛ロッドの立体構造をクライオ電子顕微鏡[3]により解明。ユニバーサルジョイン トとして働くべん毛フックの構造と詳細に比較することで、ほぼ同じアミノ酸配列を持つ両分子が、わずかなアミノ酸配列の挿入により、 曲げに堅いロッドと柔らかいフックという全く異なる機械的機能を実現する仕組みを世界で初めて明らかにしました。

今回、藤井特任助教(常勤)と難波教授らの研究グループは、細菌べん毛ロッドの凍結像をクライオ電子顕微鏡で撮影、画像解析法によりその立体構造を高分解能で解析しました。以前に解析したべん毛フックの構造と詳しく比較することにより、ほぼ同じアミノ酸配列を持ち立体構造もほぼ同じであるロッドとフックが、異なる生体機能を実現するための巧妙な仕組みを解明しました。これにより、幅広い機能を持つナノマシンを単純な構成要素で実現できる可能性が広がり、その設計技術への応用が期待されます。

本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」に、1月25日(水)午後7時(日本時間)に公開されました。

研究の背景

べん毛ロッドとフックの構成タンパク質のアミノ酸配列はほぼ同じですが、ロッドは細いのに曲げに堅く、フックは太いのに極めて曲げに柔らかい構造です。これまで、ロッドの先端に直結するフックが、さらにその先端に細長い繊維状のらせん型プロペラを結合して、このプロペラがどのような向きにあってもべん毛モーターの高速回転を伝えるユニバーサルジョイントとして働くため、曲げに柔らかい性質を実現していることが不思議でした。フックの立体構造は藤井特任助教(常勤)が博士課程の学生時代の2009年にクライオ電子顕微鏡を用いてすでに解析していましたが、ロッドは細くて短いため構造解析は困難でした。

研究の内容

藤井特任助教(常勤)と難波教授らの研究グループは、クライオ電子顕微鏡による撮像法と画像解析法を工夫することでこの課題を解決し、凍結水和状態のべん毛ロッドの立体構造を高い分解能で解明してフックの構造と詳細に比較しました。注目したのは、フックとほぼ同じアミノ酸配列でできた、立体構造のそっくりなロ ッドのドメインです。ロッドにだけ存在する10数残基のアミノ酸の挿入によりフックと数度だけ異なる配置を持つことで、ロッドでは軸方向により密な結合を実現し、その結果として曲げに対して極めて堅いドライブシャフト構造が実現していると解明しました。

さらに、ロッドの表面に負電荷が集中して、軸受けとの静電反発力が摩擦や摩耗のない回転を実現している可能性のあることや、 ロッドの長さがべん毛基部体の貫通する細菌の細胞膜と外膜の距離によって決められる、ナノスケールのサイズ調節機構の秘密などを明らかにしました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果は、幅広い機能を持つナノマシンを単純な構成要素で実現するための設計技術への応用が期待されます。

なお、本研究は科学研究費助成事業特別推進研究の一環として行われました。

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用語説明

※1 ナノサイズ
ナノメートルは10億分の1メートル。髪の毛の太さは100ミクロンで100,000ナノメートル。

※2 細菌べん毛
多くの細菌の運動器官で、30数種類のタンパク質から構成される巨大な超分子。細胞外に10数ミクロンの長さに伸びるらせん繊維状のプロペラを、その根元で細胞膜を貫通する基部体が回転モーターとして毎分数万回の速度で高速回転させることにより細菌の遊泳に必要な推進力を発生させる。

※3 クライオ電子顕微鏡
液体窒素や液体ヘリウムで冷却した試料ステージを装備した透過型電子顕微鏡で、重金属で染色することなく急速凍結して、氷薄膜に包埋した生体分子複合体試料の電子顕微鏡像を、電子線照射ダメージを低減することにより高解像度で撮影できる装置。さまざまな方向での生体分子の透過像を数多く撮影して画像解析することにより生体分子の立体構造解析が可能。最近開発された電子線直接検知型CMOS カメラを使用するとタンパク質の主鎖や側鎖が見える分解能も達成可能。


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