2つの研究グループがマウスモデルを用いて、キナーゼ阻害薬として知られるクラスの薬剤により難治性の肺癌の増殖が抑制され得ることを発見した。いずれの研究も、FDA承認済みのキナーゼ阻害薬がいくつかのマウスモデルで肺癌の増殖を抑制できることを明らかにし、現在は効果的な治療法がほとんどないある種の肺癌に対する治療法への新たな道を示した。肺癌は、男性と女性の両方で最も死亡率の高い癌であり、世界中で年間150万人を超える死者を出している。最も頻度の高い肺癌である肺腺癌の3分の1はKRAS遺伝子の変異と関連している。この遺伝子は、通常は細胞の成長および分裂を制御する蛋白質をコードするが、変異を起こすと、制御不能な細胞の増殖と腫瘍の形成を促進し、キナーゼ阻害に抵抗性を有する腫瘍となる。広範な研究にもかかわらず、変異したKRAS蛋白質を効果的に標的とする治療は現在存在せず、それに代わる戦略の開発が喫緊の課題であることが明らかである。Björn KruspigらはKRAS誘発性の肺癌の進行が、腫瘍細胞の増殖を助ける、ERBB受容体チロシンキナーゼ(RTK)として知られる複数の蛋白質の活性に依存することを示した。また、ERBB RTKを阻害することで肺腺癌のマウスモデルにおいて生存期間が延長することも示した。同様の研究を行ったHerwig Mollらは、ERBBファミリーに属するEGFRと呼ばれるシグナル伝達経路の活性化もKRAS誘発性腫瘍の成長を促進することを発見し、FDA承認済みのERBB阻害薬アファチニブを肺癌マウスに投与すると、KRAS誘発性肺癌の増殖が抑制されることを示した。両グループの結果から、キナーゼ阻害薬がヒトでもこの難治性悪性腫瘍に対する治療戦略となり得る可能性が示唆される。
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Journal
Science Translational Medicine