ScienceとScience Advancesの7件の新しい研究で、遺伝子型-組織発現(GTEx)プロジェクトの第3段階および最終段階が紹介された。GTExプロジェクトは、健康なヒトにおける遺伝子多様性の影響を深く理解することを目指した科学者によって10年前に開始された。多数の組織とヒトに基づくこの結果から、遺伝子多様性が加齢と疾患にどのように影響を与えるかに関する情報を得るために役立つと考えられる、遺伝子発現の集団特異的および性別特異的な差異が明らかになった。
GTExプロジェクトが調査している疑問の1つは、男女での遺伝子発現の性差(哺乳類に広く共有されている)である。今回の一連の研究の1つであるMeritxell Olivaらによる研究で、3分の1以上の遺伝子に、1つ以上の組織で性バイアスのある発現がみられることと、男女間で差がみられる遺伝子は免疫応答や癌などの複数の経路に多いことが報告された。Olivaらは、これが一部の疾患の根本的な性特異的調節異常に寄与している可能性があるという仮説を立てている。Olivaらの研究では、遺伝子発現における性差が、組織内の細胞タイプによって、ゲノム間で、そして個人間でどのように異なるのかも示された。Perspectiveで、Melissa A. Wilsonは、研究界における彼らの知見の有用性を強調し、将来の罹患組織との比較に利用できるリソースとなると述べている。また、男女の試料を使用する将来の研究では、今回の知見である「症例と対照の細胞タイプの性比が異なると、対象とした表現型よりも遺伝子発現シグナルの方を強調してしまう可能性がある」を考慮する必要があると指摘している。Scienceの4つの別のGTEx研究では、ヒト組織における遺伝子制御の影響が議論され(Francois Aguetら)、機能的なまれな遺伝的多様性が特定され(Nicole Ferraroら)、テロメア長の予測因子が検討され(Kathryn Demanelisら)、細胞タイプに特異的な遺伝子制御が報告された(Sarah Kim-Hellmuthら)。UK Biobank登録者360,000名のデータを用いたScience Advancesの研究では、Aine Duffyらが、薬物臨床試験の失敗の原因となることの多い薬物の副作用について情報を得るために、組織特異的な差異をどのように利用できるかを検討した。この研究から、組織特異的な薬物送達の必要性が強く示された。Science Advancesの2番目の研究では、Milton Pividoriらが、PhenomeXcanと呼ばれるツールを使用して49個の組織の4,091個の特性を解析し、結果を22,515遺伝子を含む遺伝子ベースの検索可能なプラットフォームに変換した。因果関係のある遺伝子-性質関係の特定に役立つ方法を適用することで、彼らの解析は、過去には困難であった、どの複雑な遺伝子の性質が治療標的となり得るかに関する情報を得るために役立つ。
WilsonはPerspectiveで、この一連の研究と透明性のある共有された試料セットが貴重な貢献をしたことを強調しているが、個人間の多様性の検討を妨げるサンプリングバイアスも指摘している。3分の2以上の試料は男性から得られ、半分以上の試料は50歳以上の人から得られ、約85%の試料は欧州起源の白人から採取された。Wilsonはこう結論付けている。「試料にこのような欠点があるにしても、GTExコンソーシアムの対象者の間で遺伝子発現にどれほど大きな個人間の多様性が認められるのかは、非常に驚くべきことであり、ヒト遺伝学者にとって刺激的だろう。これは今後の研究でヒトの多様性の説明を拡張するプロジェクトのきっかけとなると考えられる。」
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