News Release

お酒に弱い人は脂肪肝に注意!

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

The Cumulative Prevalence of NAFLD According to the ALDH2 Genotypes

image: The risk of NAFLD was significantly higher in the ALDH2*2 allele carriers than in the non-carriers. view more 

Credit: Dr. Kentaro Oniki (http://dx.doi.org/10.1038/nutd.2016.17)

熊本大学大学院生命科学研究部(薬学系)薬物治療学分野の鬼木健太郎助教、守田和憲氏(博士課程3年)、猿渡淳二准教授らは、同(医学系)消化器内科学分野・渡邊丈久助教、佐々木裕教授、日本赤十字社熊本健康管理センター・大竹宏治医師、緒方康博所長らとの共同研究により、遺伝的に活性アルデヒドを分解する酵素の働きが低い人(お酒に弱い人)は、飲酒習慣*1がなくても脂肪肝の発症リスクが高いことを、人間ドック受診者を対象とした臨床研究により初めて明らかにしました。

アルコールの多飲(習慣的飲酒)は脂肪肝を引き起こすことがよく知られていますが、それ以外にも食べ過ぎや運動不足等が原因で肝臓に中性脂肪が溜まり肝機能障害を引き起こす�非アルコール性脂肪性肝疾患*2�が、近年の食の欧米化に伴い日本で増加傾向にあります。非アルコール性脂肪性肝疾患は自覚症状が少ないため見過ごされやすく、進行した状態(肝硬変等)で発見されることも多いことから、早期発見・予防が重要です。

アルデヒド脱水素酵素2(ALDH2:aldehyde dehydrogenase 2)は、アルコールを分解する際に生成されるアセトアルデヒド*3をはじめ、肝障害の原因となる種々の活性アルデヒドを分解する酵素です。この酵素の活性(働き)が遺伝的に低い人は、飲酒に伴う顔面紅潮や気分不良を引き起こしやすく、飲酒量は減少します。一方、ALDH2の活性が遺伝的に高い人(お酒に強い人)は、多量飲酒によるアルコール性の脂肪肝といった飲酒関連疾患のリスクが高いとされてきました。近年のマウスを用いた研究では、アルコール摂取の有無に関わらずALDH2の働きを活性化させると肝臓への中性脂肪の蓄積が抑えられることがわかり、飲酒が関係しない非アルコール性脂肪性肝疾患の発症とALDH2遺伝子型の間に関連性があると考えられます。しかしながら、これまでこのような報告はありませんでした。

本研究では、ALDH2の低活性遺伝子型の人(お酒に弱い人、日本人の約半数)は、たとえお酒を飲まなくても、食生活の乱れや運動不足等により脂肪肝を発症しやすく、さらに、肝機能検査値γ(ガンマ)-グルタミルトランスフェラーゼ(γ-GTもしくはγ-GTPと表記される)*4がそれほど高くなくても、脂肪肝の発症リスクが高くなることを示しました。以上より、ALDH2の低活性遺伝子型の人に対する脂肪肝予防のためのγ-GTPの継続的なチェックや、生活改善等の積極的介入が望まれます。

本研究の成果は2016年5月23日に英国科学誌「Nutrition & Diabetes」に発表されました。

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<論文名>
The longitudinal effect of the aldehyde dehydrogenase 2 *2 allele on the risk for non-alcoholic fatty liver disease

<掲載雑誌>
Nutrition & Diabetes, in press (2016)

<著者名・所属>
鬼木健太郎1*、守田和憲1*、渡邊丈久2、梶原彩文1、大竹宏治3、中川和子1,4、佐々木裕2、緒方康博3、猿渡淳二1,4�
1熊本大学大学院生命科学研究部(薬学系)薬物治療学分野
2熊本大学大学院生命科学研究部(医学系)消化器内科学分野
3日本赤十字社熊本健康管理センター
4熊本大学薬学部附属育薬フロンティアセンター
*論文の筆頭著者(equally contributor)
�論文の責任著者

<研究の背景>
非アルコール性脂肪性肝疾患は肝臓に中性脂肪が溜まった状態であり、進行すると非アルコール性脂肪肝炎、肝硬変、肝がんを発症するだけでなく、糖尿病や心血管疾患等にも関与するため、早期発見・予防が重要とされています。アルデヒド脱水素酵素2は、肝障害の原因となる種々の活性アルデヒドを分解する酵素です。ALDH2は、飲酒後に体内でアルコールを分解する際に生成されるアセトアルデヒドの分解にも関与するため、アセトアルデヒド分解能力の強弱に関係するALDH2の遺伝子型は、その人が飲酒可能な量を決める(制限する)要因とされています。日本人を含む東アジア人では、ALDH2の低活性遺伝子型の人の割合が特に高く、事実、日本人ではALDH2の働きが低い人(お酒に弱い人)が40%、働きが全くない人(お酒を全く飲めない人)が10%存在します。これまで、アルコール性肝障害をはじめとする飲酒関連疾患については、ALDH2の活性遺伝子型の人(お酒に強く飲酒量が増えやすい人)でリスクが高いとされてきました。その一方、ALDH2の低活性遺伝子型が心血管疾患のリスク因子となることが東アジア人を対象とした研究で報告された他、マウスを用いた研究では、ALDH2を活性化させると肝臓への脂肪の蓄積や動脈硬化が改善することが示されました。しかしながら、ALDH2の低活性遺伝子型と非アルコール性脂肪性肝疾患の関連性は明らかではなく、日本人における非アルコール性脂肪性肝疾患の予防・治療戦略を立てる上で重要な情報が欠けていました。

<研究の内容>
上記の背景を踏まえて、本研究では、ALDH2遺伝子型が非アルコール性脂肪性肝疾患発症に及ぼす影響について、日本赤十字社熊本健康管理センターの人間ドック受診者のうち、飲酒習慣のある者を除外した341名を対象に検討をおこないました。
その結果、ALDH2の低活性遺伝子型の人では、活性遺伝子型の人に比べて非アルコール性脂肪性肝疾患の罹患率が約2倍高いことがわかりました。また、肝障害の指標として日常診療に用いられているγ-GTPを調べたところ、25.5IU/L が非アルコール性脂肪性肝疾患の発症と非発症を予測する際の分岐となる値であったことから、ALDH2の低活性遺伝子型とγ-GTP 25.5IU/L以上の組み合わせが非アルコール性脂肪性肝疾患発症に及ぼす影響を検討しました。その結果、「ALDH2低活性遺伝子型かつγ-GTP が25.5IU/L以上の人」では、「活性遺伝子型かつγ-GTPが25.5IU/L未満の人」と比べて、非アルコール性脂肪性肝疾患の発症リスクが約4倍高いことがわかりました。したがって、ALDH2の低活性遺伝子型の人は、γ-GTPが25.5IU/Lというそれほど高くない値であっても、非アルコール性脂肪性肝疾患の発症に注意が必要であると考えられます。
以上の結果より、お酒に弱い人は、非アルコール性脂肪性肝疾患発症に注意が必要であり、γ-GTPの継続的なチェックや生活改善によって非アルコール性脂肪性肝疾患を予防することが望まれます。今後、本研究結果に加えて、非アルコール性脂肪性肝疾患の発症・進展に関わる他の遺伝子型やその他の因子の影響を明らかにできれば、その早期予測が可能になり、リスクが高い人の早期抽出と積極的な生活改善指導・治療によって、効率的な予防・治療と医療費の削減が期待できます。

*1飲酒習慣
一日の平均アルコール摂取量が男性30g以上、女性20g以上
アルコール30gは日本酒1合又はビール大瓶1本に相当する

*2非アルコール性脂肪性肝疾患
(NAFLD: non-alcoholic fatty liver disease)
肝臓に中性脂肪が沈着して肝障害をきたす疾患の総称であり、飲酒に
よって引き起こされる肝障害や、ウイルス性、自己免疫性の肝疾患は除外
される

*3アセトアルデヒド
活性アルデヒド(有害物質)の一種であり、飲酒後に体内のアルコールを分解する際に生成される顔面紅潮や気分不良の原因物質

*4 γ(ガンマ)-グルタミルトランスフェラーゼ
(γ-GT:γ-glutamyltransferase又はγ-GTP:γ-glutamyltranspeptidase) 
肝障害や飲酒量の指標として日常診療に用いられている検査値であり、その基準値は施設によって異なるものの、一般的に70 IU/L以下とされる


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