News Release

模擬溶融デブリ中のホウ素の化学状態分布の取得に成功

福島第一原子力発電所の廃炉推進への貢献に期待

Peer-Reviewed Publication

Kyoto University

Towards decommissioning Fukushima:

image: Compilation of control rod cross-sectional images, showing results of high-temperature steam oxidation. Japanese researchers have mapped the distribution of boron compounds in a model control rod, paving the way for determining re-criticality risk within the reactor. view more 

Credit: Kyoto University

1.研究の背景

原子炉の出力の制御に用いられる制御棒は、中性子をよく吸収する材料によって炉心における核分裂反応をゆっくりと継続的に起こさせるために必要であるとともに安全上重要な機器です。福島第一原子力発電所を含む商用原子炉の制御棒に広く用いられている炭化ホウ素(B4C)は優秀な中性子吸収材料であるとともに、2400℃以上の融点を持つ優れた材料です。しかし、400℃程度までの通常運転温度条件では安定な炭化ホウ素も、シビアアクシデント(過酷事故)時においては高温に晒されることによって周囲のステンレス鋼材等と共晶反応を起こし、炭化ホウ素やステンレス鋼単体での融点よりも低い1150℃程度の温度で溶融してデブリを形成することが想定されます。溶融物が炉心の下部に移行するキャンドリングやリロケーションと呼ばれる現象が起こると、特にシビアアクシデントの初期過程において、炉心上部での制御材の不足を生じる可能性があります。加えて、高温水蒸気による酸化反応も生じると考えられます。これらの反応を通して、ホウ素は様々な化合物を形成しうるため、環境に放出される放射性物質の種類や量にも影響を及ぼすと考えられます。また、核燃料物質を含むデブリ中においては中性子をよく吸収するホウ素の存在位置が再臨界リスクの評価のために重要な情報となります。これらの観点から、制御材である炭化ホウ素と隣接するステンレス材料やジルコニウム合金との共晶反応を理解し、またその化学形態とともに空間分布を明らかにすることが求められます。

炭化ホウ素に含まれるホウ素の分析については、大型放射光施設を用いたエックス線分光法によって化学状態の詳しい情報が得られるものの、マイクロスケールでの空間分布の詳細を同時に得ることは困難です。一方、従来の走査型電子顕微鏡技術では波長分散型エックス線発光分光装置によってホウ素の位置情報は得られるものの化学状態の詳細な分析は困難です。

 本研究では、最近開発された電子顕微鏡用軟X線発光分光装置(EPMA-SXES)を用いることによって、これまで困難であった模擬溶融デブリ中のホウ素の化学状態を踏まえたマイクロスケールでの二次元分布解析に成功しました。

本成果は、2016年5月10日午後6時(日本時間)に、英国科学誌『Scientific Reports』に掲載されました。

2.研究手法・成果

本研究では、新たに開発された軟エックス線発光分光装置(SXES)を走査型電子顕微鏡の一種である電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)に搭載したEPMA-SXESによって,従来困難であったホウ素の化学状態とマイクロスケールでの二次元分布を同時に分析することが可能となりました。図1のEPMA-SXESによって取得したホウ素化合物単体のB-Kエックス線発光スペクトルが示すように、酸化ホウ素(B2O3)、炭化ホウ素(B4C)、ホウ化鉄(Fe2BおよびFeB)がそれぞれ単体のホウ素(B)とは異なるピーク形状を示しており、これらの違いによってホウ素化合物の種類を同定可能であることを示しています。本結果は、従来は大型放射光施設によってのみ可能であった高いエネルギー分解能でのSXESを、実験室規模の電子顕微鏡装置で実現できることを示しています。境下に30分保持したところ構造体は溶融しました。溶融物を冷却後に固化したものから切断した試料の断面に対して、EPMA-SXESを用いて分析した結果を図3に示します。溶融物には炭化ホウ素の粒が残存していることが確認されました。また、残存炭化ホウ素粒の周辺には溶融物が存在しており、得られた軟エックス線スペクトルに、図1で示したホウ化物に特徴的なショルダーピークが見られることから、炭化ホウ素とステンレス鋼の共晶反応によって生じたホウ化物であることがわかります。一方、残存炭化ホウ素粒の周辺には酸素が存在するものの、酸化ホウ素に特徴的なピーク移動やサテライトピークが見られないため、この領域には酸化ホウ素は存在していないことを示しています。

本研究成果より、EPMA-SXESによって実験室レベルでホウ素の化学状態分布解析が可能であることを示しました。また、本手法を用いてシビアアクシデント模擬環境に置かれた炭化ホウ素制御棒におけるホウ素の化学状態分布を世界で初めて明らかにすることができました。

3.波及効果

本研究によって、シビアアクシデント時の溶融デブリ形成過程の解明が促進され、福島第一原子力発電所の廃炉の推進に繋がることが期待できます。また、従来のエックス線発光分光装置では困難であったリチウムやベリリウムのような軽元素の化学状態分析も可能であるため、様々な材料研究開発への応用も期待されます。

4.今後の予定

本研究により、シビアアクシデント環境におかれた炭化ホウ素制御棒の模擬溶融デブリ中のホウ素の化学状態分布を調べることが可能になりました。今後は、場所によって異なる複雑な組織と元素分布を有している溶融デブリの全体像を把握するための基礎データの取得を進め、シビアアクシデント解析や再臨界リスクの検討において重要なホウ素の存在状態に関する基盤的知見の構築に貢献します。

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