News Release

原子ひとつひとつをつなげて分子ワイヤを作る

Peer-Reviewed Publication

Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University

拡張ニッケル原子ワイヤ

image: X線回折法による、単一の線状ワイヤに11個の金属原子が含まれるEMACの結晶構造。これまでに文献で報告されている中で最長のもの。 view more 

Credit: OIST

電子機器は日々小型化しています。 初期のコンピュータは、部屋いっぱいになるほど大型のものでしたが、現在では、手のひらサイズになっています。さらに分子エレクトロニクス分野では、次世代レベルの小型化を目指しています。研究者達は、肉眼では見ることができないほど極小サイズの電子部品を作製しているのです。

分子エレクトロニクスはナノテクノロジー分野のひとつで、電子部品として、単一分子またはナノスケール分子の集合体を使用しています。バルク材料を分子ブロックに置き換え、小型コンピューティング機器を作製することを目的としています。

例えば金属原子は、ナノスケールの「分子ワイヤ」 に作り変えることができます。 拡張金属原子ワイヤ(EMAC)としても知られている分子ワイヤは、単一金属原子の一次元ワイヤが、リガンドという有機分子で支えられています。 分子ワイヤタイプの化合物は、LEDライトから触媒まで、幅広い用途に使用されています。

この度、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究者らは、銅原子の一つ一つを段階的に追加または除去することにより、異なる長さを持つ銅分子ワイヤの簡単な作製方法を発見しました。 「この研究は、銅の分子ワイヤを階段的に、原子毎にプロセスして作製できた世界初の例です。私たちのこの方法は、一度にひとつのピースを加えるレゴに例えることができるのですよ。」と、OIST錯体化学・触媒ユニットを率いるジュリア・クスヌディノワ准教授はコメントしています。

分子ワイヤというものには様々な長さがあり、それに応じて異なる分子特性や実用的な応用が可能となります。 これまでに文献に報告された最長のEMACはニッケルベースのものであり、単一の線状ワイヤに11個の金属原子が含まれています。

異なる長さの分子ワイヤを作製することは、特定のリガンドをその都度合成する必要があるため、困難です。 マクロの世界で「絶縁体」と見做されるリガンドは、金属原子を連結させて直線の紐状に配置させることにより、分子ワイヤの形成を助けます。 しかしながら異なる長さのリガンド作製は、精巧で複雑なプロセスとなることがあります。

OIST研究者は、この問題を克服する新しい方法を発見しました。「私たちは、複数の分子ワイヤが合成可能な、単一のダイナミック・リガンド作り出しました。この方法は、分子ワイヤに応じて毎回新しいリガンドを作製するよりも、はるかに効率的なのです。」と、論文の筆頭著者であるオレステス・リバーダ・ウィーラハン博士は説明します。

Angewandte Chemieインターナショナル版 に発表された論文では、 銅分子ワイヤを作製する新たな段階的方法について報告しています。「リガンドは、金属原子が入れるように一端が開き、また分子ワイヤが延長する際には、より多くの金属原子を収容するため、ワイヤに沿って滑り運動をします。」とクスヌディノワ准教授は説明しています。リバーダ・ウィーラハン博士は「これは伸び縮みができる分子のアコーデオンに似ています。 」と 例えています。このように一度にひとつずつ銅原子を追加および削除することで、 1〜4 個の銅原子を含む異なる長さの分子ワイヤを構築することができるのです。

このダイナミック・リガンドは、 化学者が特定の形状および特性を有する分子を合成するための新しい方法であり、マイクロ・エレクトロニクス分野にとどまらず多くの実用化の可能性を有します。

「次なるステップは、他の金属、もしくは異なる金属を合わせた分子ワイヤを作製できるようなダイナミック・リガンドを開発することです。」と、リバーダ・ウィーラハン博士は説明します。 「例えば、分子ワイヤの末端に選択的に銅原子を挿入し、分子ワイヤの中心に異なるタイプの金属を使用することにより、面白い電子特性を持つ新規の化合物を作製することができるかもしれません」と、クスヌディノワ准教授は期待をこめて将来への展望を語りました。

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