News Release

ミツバチの大量死に立ち向かう

世界中のミツバチを脅かすバロアダニのゲノムを解読

Peer-Reviewed Publication

Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University

Micro-CT Scan of Mites

image: A micro-CT scan that researchers in OIST's Ecology and Evolution Unit use to study the Varroa mites that threaten honey bee colonies. view more 

Credit: OIST

ミツバチの大量死(蜂群崩壊症候群)は地球環境やグローバル経済、世界の食料安全保障に深刻な影響を与えます。大量死の原因の一つはミツバチに寄生するバロアダニで、体調わずか数ミリのこのダニが、ミツバチのコロニーに潜入しウイルスを媒介します。しかしバロアダニの生態については、これまでほとんどわかっていませんでした。

 沖縄科学技術大学院大学(OIST)生態・進化学ユニットの研究者たちは、この度、ミツバチに寄生する二種のバロアダニの全ゲノムを解読しました。解読の結果、二種のダニがそれぞれ異なる宿主内生存戦略を持っていること、またそれらの生存戦略がミツバチの防御機構を上回っている可能性が明らかになりました。本研究結果は、ミツバチを死に至らしめるバロアダニの防除の可能性を示すとともに、寄生虫と宿主の共進化の解明につながると期待されます。

 Communications Biology誌に掲載された本研究は、米国と豪州の研究者による共同研究であり、このことからもミツバチの個体数減少が世界的な問題であることがわかります。

 「今存在している生物はみな、寄生虫の侵入や病気に対処する手段を獲得してきた種です。うまく対応できずに絶滅した種も多くいます。ミツバチがそのような運命をたどらないために、バロアダニとの共進化の過程を解明したいと思っています。」と論文責任著者のアレクサンダー・ミケェエブ准教授は話します。

寄生虫の進化

 二種のバロアダニは、養蜂のために飼育されるミツバチに寄生します。アジア原産で、もともとはトウヨウミツバチの寄生虫でした。20世紀に入り、入植者によってミツバチが世界各地に持ち込まれたことで、二種のバロアダニは欧州に広まりました。その後1970年代から80年代にかけて南北アメリカに広まり、セイヨウミツバチの脅威となっていきました。

 バロアダニとミツバチが長い年月をかけて共進化した過程を解明するために、ミケェエブ准教授とOISTのポストドクトラルスカラーであり本研究論文の共著者であるマエヴァ・テシェル博士らは、二種のバロアダニの全ゲノムを解読し、その結果、二種のDNAの99.7%が一致し、二種は事実上区別がつかないことがわかりました。

これほど類似しているにも関わらず、遺伝学的証拠は、この二種が別々の進化の道をたどってきたことを示しています。バロアダニが種によって異なる適応戦略を取るため、宿主であるミツバチは、複数の種の寄生虫に対する抵抗性を同時に獲得することが難しいのかもしれません。

 ミケェエブ准教授は次のように説明します。「それぞれの寄生虫で宿主への適応機構が異なるため、一種には効果的な防御法が、別の種には効かない可能性があることがわかりました。」

 ミケェエブ准教授とテシェル博士は、解読したゲノム情報が今後、蜂群崩壊症候群に対して種ごとに異なる防除構築の基礎を築き、寄生虫の進化と適応のさらなる解明につながることを期待しています。

「寄生虫は常に進化しています。バロアダニの繁殖スピードは速いので、あらゆる点でミツバチより進化する可能性があるということを念頭に置かなければなりません。標的は常に動いているということを忘れずに、バロアダニ防除の研究を続けていきます。」とミケェエブ准教授は締めくくりました。

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