<概要>
豊橋技術科学大学電気・電子情報工学系、情報知能工学系、応用化学・生命工学系とエレクトロニクス先端融合研究所の研究チームは、比較的小型な動物であるマウスの脳に適用可能なニューロン計測用の無線(ワイヤレス)計測システムを開発しました。開発したシステムの大きさはバッテリーも含め15×15×12 mm3、重さは3.9 g 以下であり、既存の有線計測システムと比べて高い信号対雑音比を含む信号の‘質’の向上に加え、高い汎用性、低価格化も実現しました。
<詳細>
微小電極を用いた電気生理学的手法は、脳組織内のニューロンの活動を直接的に捉えることができ、脳神経科学を含めこれまでに大きな貢献を果たしてきました。しかしながら、その手法においては、信号対雑音比を含むさらなる計測信号の‘質’の向上や組織を損傷させない低い侵襲性に加え、無線による計測技術が求められていました。ワイヤレス計測システムはこれらの要求に応える技術として挙げられますが、既存のシステムは大型で、また重量の点でもマウス等の比較的小さな動物に適用するには問題でした。さらに、システムの汎用性の低さも課題でした。
そこで、本研究チームはマウスの脳に適用可能な小型で軽量なBluetooth技術を用いたニューロン計測用のワイヤレス計測システムを開発しました。
「今回私たちは、マウス等の小さな動物への適用に向けて、バッテリーも含めて15×15×12 mm3、重さが3.9 g 以下の小型で軽量なワイヤレス計測システムの開発に取り組みました。重さに関しては、実験に用いられるマウス(例えば2週齢で33 g)の体重の15%以下を実現しています。また、本システムを用いた実際のマウスの計測では、有線を使わない無線の利点に加え、有線計測と比較して高い信号対雑音比を含む信号の質の向上も確認しました。これらの利点に加え、本システムはその材料費が僅か8千円程度(79.9米国ドル)で、私たちが現在使用している市販の有線計測システム(数百万円以上〜1千万円程度)と比べて極めて低コストで実現できます。」と筆頭著者の井戸川槙之介さんは説明します。
<開発秘話>
研究チームのリーダーである河野剛士准教授は「今回開発したシステムは、最初の試みとして、1チャンネルでの計測用としましたが、本システムを基盤技術とすることで、さらなる多チャンネル化も可能となります。現在、研究室では4チャンネル、またそれ以上のチャンネル数に向けた開発も既に進めています。また、通信方式にBluetooth技術を用いたことで、今回開発したシステムのさらなる小型化や、汎用性の高いワイヤレスシステムの実現が期待できるため、脳神経科学の分野だけでなく多くの分野の方に使っていただける技術になればと思っています。」
<今後の展望>
研究チームは、今回開発したワイヤレス計測システムは自由行動下等のマウスの行動解析との併用や、マウスを用いた創薬研究にも応用可能であると考えています。また、この小型で軽量なシステムは、マウスだけでなく、その他のラットやサル等へも適用可能であると考えています。
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<外部資金情報>
本研究は、JSPS科学研究費(基盤研究(B)17H03250、若手研究(A)26709024、基盤研究(A)20H00244、新学術領域研究(研究領域提案型)15H05917)、NEDO(次世代人工知能・ロボット中核技術開発)、公益財団法人 永井科学技術財団、および公益財団法人 武田科学振興財団の助成を受けたものです。
<論文情報>
Shinnosuke Idogawa, Koji Yamashita, Rioki Sanda, Rika Numano, Kowa Koida and Takeshi Kawano (2021). A lightweight, wireless Bluetooth-low-energy neuronal recording system for mice, Sensors and Actuators B: Chemical, 10.1016/j.snb.2020.129423.