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抗体でマウスおよびヒト細胞株の癌細胞を根絶する;これまで近づけなかった標的に到達

Peer-Reviewed Publication

American Association for the Advancement of Science (AAAS)

3件の研究(Science、Science Translational Medicine、Science Immunologyの各1件の研究)で、これまで近づけなかった腫瘍細胞標的に対する能力が2つの実例で初めて示されたことなどを含めて、新たに設計した二重特異性抗体の有望さが明らかになった。これらの二重特異性抗体(腫瘍抗原とT細胞に同時に結合する)は、3件の研究のマウス腫瘍モデルや細胞培養実験で、健康な細胞に損傷を与えることなく癌細胞を除去した。この結果は、CAR Tのような遺伝子改変免疫細胞療法とは異なり、個別化する必要がなく「既製品」として使用できる、この抗体タイプの治療能力を強く示している。

癌に対する一部の免疫療法では、抗原として、共通した癌関連変異を利用している。これらの免疫療法は癌に対する免疫反応を扇動する。癌関連p53腫瘍抑制遺伝子は、ヒトの癌で最もよくみられる変異腫瘍抑制遺伝子の1つであるが、この方法ではうまく標的化されていない。この主な理由は、p53腫瘍抑制遺伝子と他の変異腫瘍抑制遺伝子を再活性化することが、癌ドライバー遺伝子を不活性化するよりもはるかに困難であることである。Scienceで、Emily Han-Chung Hsiueらは、二重特異性抗体を操作してp53を再活性化することに成功した。Hsiueらはまず、変異腫瘍抑制タンパク質の特徴的な標的化可能なフラグメントを識別し、このフラグメントがT細胞にどのように提示されるかという構造的な基礎を特性評価した。そして、変異p53タンパク質のこのフラグメントを認識でき、かつ無傷の細胞の野生型p53と交差反応しない抗体を開発した。さらに、この抗体を、一部分が腫瘍細胞の変異p53抗原に結合し、別の部分がT細胞に結合する二重特異性抗体に作り替えた。この抗体は、ヒト多発性骨髄腫細胞を移植したマウスで、変異p53タンパク質を発現する癌細胞のT細胞による殺傷を有効に誘発し、腫瘍を退縮させた。また、細胞株を用いた実験で、腫瘍細胞表面に発現されている新生抗原のレベルが非常に低い場合でも、変異p53抗原を標的とした二重特異性抗体がT細胞を活性化できたことが明らかになった。

Science Translational Medicineでは、Suman Paulらが、二重特異性抗体を利用して、健康なT細胞を傷つけることなくT細胞性白血病およびリンパ腫の悪性T細胞を標的化した。これは癌免疫療法における困難な偉業である。B細胞抗原を幅広く標的とし、健康なB細胞と癌性B細胞をほぼ完全に喪失させる治療法は、非常に成功を納めており患者の忍容性も良好であるが、同様にT細胞を幅広く標的とする治療法では、有害な免疫抑制が生じる。Paulらは、T細胞受容体のβ鎖領域を標的とすることが、悪性T細胞を選択的に排除し健康なT細胞に付帯的損傷を与えないようにする戦略となり得るという仮説を立てた。そして、悪性T細胞に存在し得る30個のβ鎖の2つの例であるTRBV5-5またはTRBV12に対する二重特異性抗体を作製した。どちらかのβ鎖を標的とすることで、その他の29個のβ鎖可変領域のいずれかを発現している健康なT細胞を傷つけることなく癌細胞を排除できるという仮説を立てたのである。T細胞性リンパ腫および白血病患者由来の細胞株にこの二重特異性抗体を適用すると、悪性T細胞が有効に殺傷され、健康なT細胞は保護された。同様に、ヒトT細胞癌のマウスモデル(マウスにヒトT細胞を静脈内注射した)では、抗体により、健康なT細胞を枯渇させることなく悪性T細胞の殺傷が促進され、腫瘍が大きく退縮した。

Science Immunologyでは、Jacqueline Douglassらが、表面に非常に低濃度の癌ドライバー変異RASタンパク質を持つ培養腫瘍細胞を認識して殺傷するように、二重特異性抗体を改変した。RASのような癌ドライバー変異遺伝子を標的とすることは、癌の薬剤を作るための有望な方法として台頭してきている。しかし、この治療戦略の成功は限定されている。これらの癌ドライバー変異タンパク質の一部は腫瘍細胞で低レベルで発現されており、複数のタイプの癌に普遍的に存在するにもかかわらず、検出が非常に困難であるためである。今回Douglassらは、ファージディスプレイ法と呼ばれる方法を用いて、ヒト抗体ライブラリーから変異RAS特異的抗体を探索した。この知見に基づき、Douglassらは腫瘍細胞表面の変異RAS新生抗原を標的とした、変異関連抗新生抗原抗体(mutation-associated neoantigen-directed antibodies:MANAbodies)を作成した。Douglassらはこれらの変異RAS特異的MANAbodiesを、最適化したT細胞と結合する二重特異性抗体に移植した。ヒト肺および膵臓癌細胞株で、MANAbodyを有する二重特異性抗体を試験したところ、抗体が、非常に低濃度の変異RASタンパク質を有する腫瘍細胞を特異的に認識して殺傷でき、野生型または関連変異タンパク質を発現している腫瘍細胞には影響がなかったことが明らかになった。 「(二重特異性抗体を)クリニックへと進めるうえで、Hsuieら、Douglassら、Paulらの研究は有望であるが、治療有効性を完全に実現するには別の因子を考慮すべきである。」とWeidanzは述べている。Weidanzの指摘によれば、例えば、これらの抗体は低分子であり血流から速やかに除去されうるため、このようなタイプの薬剤は、薬剤の血中での残留性を延長するために、植え込みポンプや他の方法で継続的に注入する必要がある可能性がある。

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