融合遺伝子は、もともとは2つの別々の遺伝子が異常に結びついてしまうことで一つになってしまった遺伝子です。熊本大学の研究者らは、日光に頻繁に曝されやすい皮膚に生じる扁平上皮癌の一つ皮膚有棘細胞癌(cSCC)において出現する融合遺伝子を同定しました。
皮膚有棘細胞癌は、通常は病変部分の切除で完治が望めますが、放置されて進行した場合、他臓器に転移して生命に関わる可能性があります。また、現在診断は主に視診に頼っているため、特に非典型例では発見が遅くなることがあり、中には標準的な治療法が効き難い症例も存在するため、新しい診断法と治療法の開発が求められています。
融合遺伝子はこれまで様々なタイプのがんで見つかっており、この融合遺伝子による腫瘍形成作用を阻害する治療法が開発されています。しかしながら、熊本大学の研究グループが調査するまで、皮膚有棘細胞癌における融合遺伝子は同定されていませんでした。熊本大学の研究グループは、皮膚有棘細胞癌の研究でよく使用される細胞株A431、DJM-1、そして比較対照としての正常ヒト表皮ケラチノサイト(NHEK)を用いて研究を開始しました。その結果、A431細胞株において上皮増殖因子受容体(EGFR)のExon16とPPARガンマ共活性化因子1-α(PPARGC1A)のExon2が融合していることを見出しました。これらの融合遺伝子は、正常な皮膚サンプルや他の腫瘍組織細胞では見られませんでした。
ヒト腫瘍組織のサンプルにおいて、融合遺伝子EGFR-PPARGC1Aは、顔や手といった日光に頻繁に曝される部位に生じる病変で多く見られ、通常の生活であまり陽光に曝されない場所の病変では見つかりませんでした。また、皮膚以外の扁平上皮癌によく見つかるタイプの融合遺伝子は、皮膚有棘細胞癌ではほとんど見つかりませんでした。研究者らは、これは皮膚有棘細胞癌と日光暴露に深い関連性があるためで、EGFR-PPARGC1Aが紫外線暴露に起因する癌に関与しているのではないかと考えています。
研究メンバーである江頭 翔博士は次のようにコメントしています。
「皮膚有棘細胞癌の腫瘍形成における融合遺伝子の役割を明らかにするには、まだまだ多くの研究が必要ですが、今回の私たちの研究成果はこの種の癌の新薬開発に繋がる知見となるものです。例えば、癌の病変組織の融合遺伝子を検査して、その結果に基づいて個別にカスタマイズされた治療法を適用することが可能になります。こうした方法であれば、治療の副作用リスクを大幅に低減することができるでしょう。」
本研究成果は科学雑誌「Scientific Reports」に平成29年10月4日掲載されました。
[Source]
Egashira, S., Jinnin, M., Ajino, M., Shimozono, N., Okamoto, S., Tasaki, Y., … Ihn, H. (2017). Chronic sun exposure-related fusion oncogenes EGFR-PPARGC1A in cutaneous squamous cell carcinoma. Scientific Reports, 7(1). doi:10.1038/s41598-017-12836-z
Journal
Scientific Reports