News Release

脳の働きによる効果的な謝罪方法 ― コストがかかっているほど誠意を感じる ―

Peer-Reviewed Publication

Kobe University

 図1

image: 図1 view more 

Credit: 神戸大学

神戸大学大学院人文学研究科の大坪庸介教授、名古屋大学大学院情報学研究科の大平英樹教授、愛知医科大学の松永昌宏講師 (及び衛生学講座の研究チーム)、高知工科大学経済・マネジメント学群の日道俊之講師の研究グループは、組織や集団の謝罪がどのようなときに誠意があると感じられるかを調べました。その結果、個人が謝罪する場合と同じように、補償を申し出る・外部の第三者委員会の調査をすすんで受けるといったコストがかかる謝り方をするほど誠意が伝わること (謝罪を受けた相手側の、脳の意図処理ネットワーク※1が活性化すること) を示しました。

今後、組織や集団が、いかにして誠意の伝わる謝罪を行うことができるのかという危機管理への応用が期待されます。

この研究成果は、11月29日に、Social Neuroscienceオンライン版に掲載されました。

ポイント

>どのような謝罪がより誠意あるとみなされるのか、という研究はこれまでなかった。

>研究グループは過去の研究で、友人間や同僚間で行われる謝罪には、コストがかかっているほど誠意が感じられる(脳の意図処理ネットワークが活性化する)ことを明らかにした。

>今回の研究で、組織・集団からの謝罪でも同じようにコストがかかっているほど誠意を感じることが明らかになった。

研究の背景

これまで謝罪の研究では、誠意のある謝罪が許しを引き出しやすいということは知られていました。しかし、どのような謝罪の内容が誠意があるとみなされるのかという具体的な研究はありませんでした。大坪教授を中心とする研究グループはこれまでの研究で、個人間の謝罪では、謝罪にコストをかけることで誠意が伝わることを明らかにしていました。例えば、被害の補償を申し出る、大事な用事をキャンセルして謝罪を優先するといった、謝罪する側に何らかの不利益が生じることが謝罪のコストです。このようなコストをかけてでも謝るというのは、謝罪する側が本当に申し訳ない、関係を改善したいと思っていなければできないことです。

しかし、謝罪は個人だけがするものではありません。現代社会では、組織、企業、国などの集団が謝罪をする場面も多く、集団の謝罪においてもコストがかかっているほど誠意があるとみなされるのか、という問題はこれまで検討されていませんでした。そこで、本研究ではこの問題を検討しました。

研究の内容

本研究では、まず予備調査として、大学生108名に第三者の立場から企業や組織が問題を起こした場面を想像してもらい、それに対して企業が「コストをかけて謝罪した」「単に謝罪した」「謝罪しなかった」と分類して、それぞれの対応にどれくらい誠意が感じられるかを評定してもらいました。

例えば、ある会社の製品が発火する事故が何件か生じたという場面で、その企業が「すぐに謝罪し製品の交換も行うと発表する場合」「単に製品の不具合について謝罪する場合」「調査中として謝罪しない場合」について評定してもらいました (全部で15種類の組織の問題があり、それぞれについて3種類の対応があったため、全部で45種類のシナリオを評定してもらいました)。その結果、図1に示すように誠意の知覚はコストのかかる謝罪ほど高くなっていました。

個人間の謝罪の場面では、誠意を知覚すると、脳の意図処理ネットワーク (前頭前皮質・両側の側頭頭頂接合部、楔前部※2) が活発化することが大坪教授らの先行研究で明らかになっています。そのため、本研究でもfMRI※3を用いて、集団によるコストのかかる謝罪が、コストなしの謝罪 (ただ謝罪するだけ)、謝罪なしと比較して意図処理ネットワークを活発化するかについて調べました。スキャナの中での実験の手続きは図2のように、まず集団の過ちの説明があり、それに対する集団の対応が説明され、その集団を許せるかどうかを評定し (その後、10秒間休憩してもらい) 次のシナリオへと移っていく。この方法を予備調査と同様に、今度は10種類の組織の問題それぞれに3種類の対応シナリオを用意し、計30回繰り返してもらいました。

実験に参加した25人分のデータを分析した結果、前頭前皮質についてはコストのかかる謝罪条件でも特に強い活動が見られませんでしたが、両側の側頭頭頂接合部と楔前部ではコストがかかる謝罪を想像した場合、コストなし謝罪や謝罪なしの対応を想像した場合よりも強く活動していました (図3で青い楕円で囲っている部分)。

今後の展開

本研究結果は、謝罪を受ける側が、個人の行う謝罪と同じように集団からの謝罪を処理していることを示しています。つまり、個人間の場面で効果的な謝罪 (つまりコストのかかった謝罪) は、文脈に応じて適切に集団用に変更した場合、集団謝罪の場面でも有効であることが示唆されています。個人間の謝罪の機能は友好的な関係の回復にあります。企業の謝罪は集団の利益の保持など個人の謝罪とは異なる目的でなされるかもしれません。しかし、人々の脳は、それを対個人の場面と同じ場所で処理している可能性が今回の研究結果で示唆されました。そのことを理解すれば、効果的な集団の謝罪方法なども理解できるようになると考えられます。

用語解説

※1 意図処理ネットワーク

他者の意図を理解するときに活動する脳領域。ある人が物理的にどのように動いているか等に反応するのではなく、ある人はどのような意図で行動しているのだろうかという(必ずしも外見からわからない)心の状態を理解する働きをする。

※2 楔前部(けつぜんぶ)

大脳で、頭頂葉の後部内側に位置する領域。

※3 fMRI(functional magnetic resonance imaging)

MRIを利用して、生物の脳や脊髄などの血流動態反応を画像化し、脳機能計測を行う技法。

###


Disclaimer: AAAS and EurekAlert! are not responsible for the accuracy of news releases posted to EurekAlert! by contributing institutions or for the use of any information through the EurekAlert system.